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約束の場所へ
車の運転免許を取って十年になる。
買い換えた車も三台目。
ようやく本当に自分が乗りたい車を無理なく買うことが出来た。
もちろん「乗ってみたい車」となると一生買える気はしないのだが。
去年、少しでもバスの視界に近づきたくて、独り身でありながらワンボックスカーを買った。そして海沿いの旧国道を走る。
子供の頃、この道を走るバスに揺られ、一時間離れた従兄弟の家へ遊びに行っていた。実家は絵に描いたような田舎で子供の数も少なく、加えて内向的だった俺には友達もいなかった。そんな俺が夏休みの多くの時間を過ごした場所。
今その場所に行っても、何があるわけでもない。誰かが居るわけでもない。
「ニュータウン」という一文字ずつの看板も土に還りかけている荒れた丘の上にある六十坪の空き地。従兄弟が住んでいた場所だ。竹と葦が侵食してくるのを、今では建てることの出来ない高さのブロック塀が食い止めている。
車をそのブロック塀に寄せて停めようとしたが、側溝の蓋が所々割れていたり蓋そのものが失われていたりしていると気付いた。やや道を塞ぐが通る車もないだろうと、仕方なく道路の中心寄りに停車した。
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