あのよ。

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 約束の場所はあの世。その言葉にすがり逃げ続けた俺は終戦まで逃げのびることができた。保護された帰りの船で杉田は逃げのびることができたかどうか気にする。船の上には生きのびた兵士たちが多くいたが、まるで通夜のようだった。自らが背負った罪に生き残ること業の深さに焼かれているのだろう。俺もそうだ。生きのびたとして何をやればいいのだろう。何かできることがあるのだろうか。  杉田以外の仲間の生死も分からない。船から見る空はやけに青かった。  俺の生まれは東北の小さな町。久しぶりに訪れた故郷で俺はまた絶望を味わう。瓦礫となった生家。その周りの家屋も瓦礫となっており、誰を頼ればいいかも分からない。両親の生死も分からず一時間はその場で立ち尽くしていた。 「もしかして誠司さん?」  いきなり女性に声をかけられ心臓が止まるのではないかと狼狽えた。振り返ってみるとそこには懐かしい顔があった。 「晶子さん……」  隣の家にいた幼馴染み。頬はこけて髪は乱れて、美人だと言われていた晶子さんも変わっていた。 「誠司さん、生きて帰ったんだね」 「俺は逃げ帰っただけだよ。父さん母さんはどこにいるか知ってるかい?」 「お亡くなりになりました。私の両親も」 「そうか……」  そうであろうと思っていたために衝撃はそれほど強くなかった。俺は人を何人も殺した。天罰だと言われても信じる。 「誠司さんは、これからどうするん? ここに小屋でも建てる?」 「そうするよ。もう天涯孤独だし」  無理して笑って見せるが足から力が抜けていくのを感じる。 「だったら私と所帯を持たん? どうせお互いに天涯孤独だし。支え合っていかん?」  俺は晶子さんの顔をまじまじ見つめる。 「そんな簡単に……」 「簡単じゃありません。誠司さんだから言うてるんです。兄妹のように育った誠司さんだから言うてるんです」 「……分かった」  杉田の顔が脳裏に浮かんだ。この先の人生は分からないが、今は杉田に対しての申し訳なさが胸をしめる。 「二人で頑張ろう」  幸せになることは俺にとって罪深いこと。それで支え合っていこうと言う晶子さんの言葉にかけてみようと思った。
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