あのよ。

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 生き別れになった家族や恩師を番組が探してくれた番組で再会させてくれるものだ。  杉田のことを忘れたことなどない。生きていて欲しいと願っている。死ぬ前に一度でいいから会いたい。杉田が脱走しようと誘ってくれなければ、こんな穏やかな毎日は来なかった。  孫の勇治が俺の膝の上で舟を漕いでいる。杉田、お前はどんな人生を歩んだ? 生まれ故郷の松本にいるのか?  テレビ番組を食い入るように見ていると晶子さんが静かに言った。 「この番組にお手紙出してみますか?」  しばし考えてから俺は首を振る。 「いやいい。一緒に脱走した同僚など探してはくれないだろう。情けなくて」 「じゃあさ、父さんと母さん二人で松本まで旅行に行きなよ? そのくらいならさせてあげられるからさ」  明がそう提案した。晶子さんと杉田の生まれ故郷に行こうと話してから随分時が経った。明にも教えてある話だ。 「しかし……」 「誠司さん、息子の厚意は受けるものですよ。会えるかどうか分かりませんが行きましょう」  そう言われては何も言い出せなかった。杉田、俺らはあの世でしか会えないだろうか。あの世が約束の場所であったとしても、生きているうちに会いたいと思っても許されるだろうか。  晶子さんと所帯を持って四十年以上、二人旅などはじめてのことだった。電車とバスを乗り継ぎ、のんびりと松本に向かう。杉田の生まれ故郷は松本だと聞いていたが、俺は杉田には東北の生まれだとしか言っていない。あまりに田舎過ぎて言っても分からないだろうと教えなかったことが、今更悔やまれる。 「こんな遠出は最初で最後でしょうね。松本にはお城もあるようですよ」  隣に座る晶子さんの髪は白くなっている。その白さが晶子さんの優しさの象徴にも見える。そう思ったせいか、晶子さんにはじめてする話が口を出た。 「杉田とは……、あの世で会おうと約束した。俺らはどうせ地獄にしか行けないから、そこで会おうと約束したんだ」 「私らの年代で地獄以外に行ける人などいるのですかね? 誠司さんは地獄でもちゃんと私を見つけてくださいね。地獄でも誠司さんと所帯を持ちますから」 「全く」  冗談かどうかは分からないが、嘘ではないだろう。  何度か宿を取り、松本駅を出たとき、つい息が漏れた。 「松本とは遠いところだ」 「海外に出たことがある人の言葉とは思いませんね。歩きましょうか」
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