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雪よ攫って
年に一度、約束の場所を訪れると貴方はいた。
両家が結婚を許さず、私は今も結婚せずにいる。
それでも、貴方に会えるだけで私は幸せだから。
会えなかった間、何をしてどんなことがあったのかを話す。
この瞬間だけ、私は笑っていられる。
貴方と会えない時間が恋しくて、このまま一緒にいられたら、なんて出来もしないことが頭に浮かんでは消える。
冬の寒い季節。
彼の頭に雪が乗っているのをみてクスッと笑みをこぼす。
雪を手で払い、持ってきていた一本の傘を二人で差す。
雪は好きになれないけど、こうしてあなたといられるのなら我慢できる。
「時間はあっという間に過ぎてしまうわね」
一秒でも長くいたいのに、馬車の中で待機していた侍女が迎えに来るのが見える。
別れ際「皆には内緒でこの場所に来るから、少し待っていて」と小声で伝え手を振る。
年に一度しか会えないなんて、やっぱり耐えられそうにないんだもの。
一度屋敷へと帰ったあと、私は外が暗くなったタイミングを見計らい屋敷を抜け出す。
何故こんなに大胆になれるのか。
その理由は、両親が私の結婚相手を勝手に決めたから。
今までは彼に会う一度を許してくれていたけど、今日言われたの「今年が最後だ」と。
私は貴方以外の人と結婚なんてしない、したくない。
だからこれからは、ずっと一緒に居ましょう。
年に一度なんかじゃなく、毎日ずっと。
貴方がいてくれれば、私は何もいらないのだから。
「待っていてくれたのね」
彼は約束の場所にいた。
今度は居てくれた。
嬉しくて涙が溢れる。
また貴方がいないんじゃないかと不安だった。
「これからは一緒よ」
洋服のポケットから取り出した小瓶の蓋を開け、その液体を一気に飲み干す。
痺れ始めた手から、小瓶が雪の上に落ちる。
咳き込むと、鮮明な赤が雪を色付ける。
あの日、結婚を両親に反対されたとき。
こっそりこの場所を二人だけの約束の場所として会うことにしたわよね。
お互いが惹かれ合い、他の人なんて考えられなくて、諦めきれなくて。
会う度に、次はこの日に会おうって決めていた。
そんな日々が続いていたのに、あの日、貴方はこの場所に現れなかった。
きっと何か来られない事情ができたんだと思い屋敷に戻ってから知ったのは、貴方が亡くなったこと。
雪で馬車が滑り、そのまま貴方は帰らぬ人となった。
私は雪が嫌いよ。
雪は貴方を奪い、会える日も命日だけになってしまったのだから。
それでも、今は雪が好きになれそう。
貴方の元へ連れて行ってくれるのだから。
これからは、ずっと一緒よ。
《完》
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