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『俺だよ、ばあちゃん! 助けてくれ! 車でやばい奴らと事故っちまって修理代請求されているんだ!』
昼のショッピング番組を見ていたら、家の電話が鳴った。
イネは受話器を取った瞬間に理解した。これは赤の他人だと。
イネが孫でないと即座に理解したのは、孫達の手厚いサポートの賜物である。
イネには二人孫がいて、一人は高校生になったばかりの女の子、安奈。
もう一人は安奈の兄、護だ。
護は23歳。運転免許を持っているが、この電話をしてきたのは護ではない。
二ヶ月ほど前のこと。安奈の友達のおばあさんが、オレオレ詐欺被害に遭って200万円をだまし取られてしまった。
それで安奈と護はイネを心配して簡単スマホを買ってきた。
「イネちゃん。おれが月額料金払うから、今度からはこれで連絡取り合おう」
「イネちゃん、あたしが使い方教えるから、あたしたちと連絡取るときはテレビ電話にしようね。絶対テレビ電話で連絡するから。ね!」
「はいはい。うちの孫たちは心配性だねぇ」
なんだかんだイネは孫の顔を見て話せるのが嬉しくて、すぐにスマホの使い方を覚えた。
イネちゃんと名前で呼ばれているのでわかるとおり、孫が大きくなったあとでも仲良しなのだ。
安奈に至っては月二で遊びに来る。
護はスマホを買ってくれてからは毎回テレビ電話だ。
これは護じゃない。間違い電話ではないかと考えた。
俺さんは今、自分の血筋とは別の家の祖母に助けを求めているのだ。
「うちの孫に俺なんて名前の子はいないよ。かけ間違えているよアンタ」
『だからぁ、俺だよ! ばあちゃん助けてくれよ。本当にピンチなんだ』
「なんだね」
『ばあちゃん! 金払わないと俺殺されちまう!』
俺さんの背後では、誰かが金を払わなきゃ警察に云々怒鳴り散らす。
受話器を奪う音がして、俺さんとは別の男がわめく。
『こいつに支払い能力がないんだから祖母のあんたが立て替えるのがスジってもんだよなぁ!! さっさと払え』
「車同士の事故なら、保険会社の仕事じゃないかねぇ。警察は呼んだのかい? 自損事故でもちゃあんと呼ばないといけないんだよ」
『うっせえ! とにかく払え! 孫がどうなってもいいのか! オレぁ組員なんだぞ! A駅裏通り廃ビル前に金持ってこいやぁ!』
わめく男の後ろで俺さんが泣いている。
「ちょっと待っておくれね。確認するから」
『早くしろよ!』
イネは家電を保留にしてスマホの緊急通報を押す。
「ああ、もしもし。警察ですかぃ? 俺って人が事故を起こしてお金をせびられているんだよ。A駅裏通り廃ビル前らしいんだけど行ってあげてくれないかねぇ」
すぐに向かうと言ってくれたので、イネは安心してスマホの通話を切って家電の受話器を取る。
「待たせてすまんかったね。30分くらいしたら行くからそこにいておくれね」
通話を終えてイネはテレビをつけ、ドラマを見ながらお茶をすする。
一時間後。
詐欺グループの人間三人が逮捕されたと速報がはいった。
「あらあら、近頃強盗とか詐欺とか、本当に物騒ねぇ。安奈たちが騙されないか心配だわ」
その物騒な輩を返り討ちにしたことに気づいてはいなかった。
END
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