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ドヤァ、とバックにかいてあるかのようだ。なんつうところから来た……いやなんつうところから提案してんだこいつは。ってことは研究者か。
「何で月かね」
「壊せないかなって」
その言葉に、私は「まじかー」と笑ったけど。他のみんなは、真剣な顔だった。
「私もね。生体バイオティクスでうまいことできないかなって思って、研究分野に行ったの」
アルパカを撫でながらテミカが言う。
「俺はずばり、有機化学な。これが大元だろ?」
サジが微笑む。
「今権力あるのは政治家じゃなくて軍だから、トップになって世界征服すりゃ手っ取り早いと思ったんだよ」
真面目な顔で、カスターが言った。
「俺は、月がなくなっちまえばいいかなって。潮の満ち引きのコントロールは、俺らがなんとかするから」
マド。
「今日、死んじまうお前を助けたかった」
有機コンピューターと直接つながっている私は、今日の活動を最後に完全に停止することはわかっていた。知らされなかったけど、計算に計算を重ねたらそういう結果だったから。
次世代生体コンピューター製造工場。その響きがあまりにも悲しくて、私も研究者たちも学校と呼んでいた。私の次の世代の子供たち。
私の、子供たちみたいなものだ。
「今日。皆既日食とともにお前は……アルテミスは完全に停止する。それがわかって、どれだけ俺らがそれを食い止めたかったか」
生き物を学んで延命できないか。コンピューター分野で延命できないか。皆試行錯誤したんだね。
『何故旧世代に金と時間をかける必要がある。お前たちはそんな愚かな選択をするほど愚かなのか? 再構築が必要か』
大人たちは、世界は皆口をそろえてそう言った。それは理に適った意見だ。地球を環境汚染から守るために作られた生体リンク型有機コンピューターたち。周囲がそう考えるのは、当たり前なことだ。
「世界を動かす方が早いかなって、AIと軍の結びつきの計画をちらつかせつつ軍に入った。相変わらず殺し合いするだけで、何の意味もないってわかった」
カスターが蔑むように笑う。きっと、軍上層部に絶望してる。
「月がなけりゃいいじゃん、ってことで。重力とか潮の満ち引きの関係を調べつつ月ぶち壊す計画のために月に引きこもってた」
そう言って、マドが乾いた笑いを浮かべる。
「間に合わなかったね。私達、間違いなく地球でトップの知能と演算ができるのに」
テミカが目に涙を浮かべる。
「アルテミスと世界どっちが大事だと思ってる、って世界中の人間が非難してきたから。アルに決まってんだろ馬鹿じゃねえの、って答えといた」
マドが私の頭を撫でる。
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