1.寮生活の始まり

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1.寮生活の始まり

「目的地に着きました」  杖の先から、ナビの合成音が漏れた。  ピタリ。  それを聞き、わたしは歩いていた足を止める。  目の前には、レンガ色の細長い建物。五階建ての、どこにでもある普通のマンションという感じ。ところどころにヒビが入っていて、クモの巣もちらほらあって、いかにも古そうだ。  学園からもらった資料に貼られていた写真とは、ずいぶんと印象が違うわね……。本当に、ここで合っているのかしら?  表札を確認する。 『私立草花学園きのした寮』  ……本当に、ここで合っているみたいね。  綺麗な寮を期待していたので、少し残念。  でもまあ仕方ないわ。はやく部屋に入って、荷物を整理しないとね。  わたしは気を取り直すと、エントランスに足を踏み入れた。  わたし、常磐なずな。四月から、草花学園中等部の一年生になる。  草花学園は、東京にある中高一貫の私立学校。魔法関係の授業が有名で、前に調べたら歴代魔法大臣にはこの学校出身の方が何人もいた。  実績を残している部活も魔法研究部や飛行部など魔法関係ばかりだし、購買部では文房具とかだけではなくて杖や箒も売ってるらしいし、本当に魔法に特化した学校だ。  そんな草花学園は、中高どちらも全寮制。わたし達一年生は、三月二十八日から三十日までの間に寮に入って入学準備をしておかなくてはならない。  なので、入学する前だけど、はるばる神戸から東京にある寮までやってきたというわけ。  それにしても、神戸から東京までの道のりはなかなかきつかったわ……。飛行絨毯で来たからそれなりに快適だったけれど、それでも長時間乗るとやっぱり疲れるわね……。  そんなことを考えながら、寮の階段を一段一段上っていく。わたしの部屋は、六階の606号室。さっき、管理人さんから教えてもらった。 「はーっ、はーっ……」  軽く息切れしながらも、階段を上り切る。  えっと、606号室はどこかしら?  わたしは、周りを見回す。でも、寮の中は意外と広くて606号室は近くに見当たらない。  仕方ないわね……。  わたしは、かばんから杖を取り出すと、まっすぐ直線を描くようにふった。 「606号がどこか教えてちょうだい」  杖の先が、ぽわんと緑に光る。光は、長く伸びていき、やがてある一つの部屋のドアを指した。  あそこね。  わたしは、ドアに駆け寄る。プレートに書いてある部屋番号は、もちろん606。  コンコン、ガチャリ。 「失礼します……」  そっとドアを開いて、中を確認する。しーんとしていて、物音一つ聞こえてこない。  寮は二人一部屋だと聞いているけれど、まだもう一人の子は来ていないようね。  わたしは、靴を脱ぎ部屋の中に入る。  中はあまり広いとは言えないけれど、狭すぎずちょうどいい広さだった。  左にはベッド、右には机が二つずつ並んでいて、奥には小さな冷蔵庫や棚が置いてある。まるでホテルみたい。  なんだかのんびりしたくなってくるけれど、先に荷解きを済ませないと……。  わたしは、持ってきたかばんの中身を取り出した。先に寮へ送っておいた荷物もちゃんと届いていたので、それも取り出していく。  えっと、制服はクローゼットに入れて、目覚まし時計はベッドのサイドテーブルに置いて……。  それから三十分後。  小説や参考書などを棚に入れ終えると、わたしはふーっと息をついた。  これで荷解きは完了。今日のタスクは、全てやりきったはず……!  わたしは、ベッドに座り込んだ。そして、ポケットから杖を取り出すと、まっすぐ一振りする。 「キンキンに冷えた麦茶、出てきなさい!」  ことり。  サイドテーブルに、麦茶が静かに現れた。氷も入っていて、見るからにキンキン。  ごくっごくっ。  ふーっ、やる事をきっちり終わらせた後の麦茶はやっぱり最高の味ね!  わたしは、大きく伸びをする。そのとき、ふと隣のベッドが目についた。  そういえば二人一部屋だから、こうして一人で過ごせるのも今だけなのよね……。これから六年間ずっと、ルームメイトの子と一緒に暮らすことになるのだから。  そう思うと、ルームメイトの子のことが少し気になってくる。  ルームメイトはどんな子なのかしら。やっぱり魔法が得意な子かしら。できれば、優しい子だと嬉しいわね……。  わたしは、まだ見ぬルームメイトに思いをはせた。
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