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ようやく
澪は病院の白い部屋のベッドの上でようやく自分の命が終るのを感じた。
長い人生だった。
そして、何度も何度もペットとのお別れもした。
でも、小さい頃飼っていたペットたちは親が飼っていたのだから。
きっと澪が天に昇ってももう、親と一緒に虹の橋を渡ってしまっているのだろう。
澪が自分で飼っていたのは猫3匹。
ペットの命が自分よりも短いのは分かっていても別れはその度に耐えがたく、澪の心を削っていった。
年を取り、最期の猫がいなくなってからは、もう次の猫は飼わなかった。
澪は息子たちとも離れて暮らしていたし、二人の息子はどちらも責任をもって動物を飼える性格でもない。その上、一人はひどいアレルギー持ちだ。
無責任に小さな命を残してはいかれない。
澪は虹の橋があると思うから、自分が死ぬのも怖くはない。
人間の民話から生まれた、動物と人間があえる死後の約束の場所。
虹の橋。
きっと猫たちは虹の橋のたもとで待ってくれている。
そんな風に思っているのは人間だけで、猫たちは案外ペロッと転生して、生きている澪と一緒の時間をどこかで過ごしているのかもしれない。
でも信じたいのだ。
病気で亡くなった猫たちが元気になって待っていてくれる姿を見たいと、願っているのだ。
みんな、約束通り虹の橋のたもとで、待っていて頂戴ね。
澪は静かに最後の息を吐き、目を閉じた。
【了】
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