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京子は、小学生だった頃の自身の振る舞いを反省していた。当時、男子と遊ぶ事が多かった京子が、他の女子と比べられ粗野でがさつに見られていた事を知ったのは、好きな男の子への一世一代の告白だった。好きな男の子からの返答は、「がさつな女子は嫌だ」だった。その言葉に京子は一刀両断され、恋は無残に散っていった。それ以来、京子は誓ったのだ。なん時も、恥じらいを持ち、おしとやかに振る舞い、奥ゆかしく見られる女の子になろうと。そうして、京子は、中学に上がったのだった――。
京子は、学校からの帰り道でも気を抜かず、おしとやかな歩き方を実践していた。
それは、駄菓子屋の前に差しかたった時だった。
「ねぇちゃん!」
呼び止められた。声の方を向くと、そこには、弟である雄輔と洋二がいた。
京子は思わず顔をしかめる。この弟たち――悪ガキたちは、京子の奥ゆかしさを目指す道の最大敵だった。相手をすればいつもろくなことにならない。京子は足を緩めず、通り過ぎてようとする。
すると、雄輔がバタバタと京子に駆け寄り、前に出てくる。
「どっか行かずに助けてよ! ねぇちゃん!」
続く洋二が、何かを突き出してきた。
「これ、開かないんだ」
洋二の手にあったのはラムネ瓶だった。栓になっているビー玉が押し込めず、中身にありつけないでいるのだ。
と、そこへ雄介の余計な一言が続く。
「ねぇちゃんのバカ力なら開けられると思うんだよ」
京子は、頭に血が上っていくのを感じた。しかし、ぐっと怒りを抑え込む。ここで声を荒げるなんて恥じらいの欠片もない行動だ。目を細め、二人を見降ろす。
「いつもいつも、いたずらばっかりするから天罰が下ったのよ。じゃあ、ごきげんよう」
京子はさらりと告げ、二人を追い越していく。
しかし、雄介と洋二もあきらめなかった。
「ねぇちゃんごめんてー ねぇちゃんしか頼れないんだよー」
「おこずかい全部つかっちゃったんだよー このままじゃやるせないよー」
京子の後ろから言葉を飛ばしながら、尚も付いてくる。
京子は困った。もし、この状況を同級生にでも見られ、あらぬ誤解から噂を流されれば、奥ゆかしさへの道が遠のくかもしれない。万が一にでも、そんな事態は避けなければならないのだ。それに、雄介と洋二は本気で困っていると京子は思った。
あきれながら振り返り、「しょうがないわね」とラムネを受け取った。
そして、「そんなに力いらないでしょうに」と一気にビー玉を押し込んだ。
カラン。軽やかなビー玉と瓶の音色が響いた、次の瞬間だった。
ぶしゃー! と炭酸が噴水の如く噴き出し、勢いよく京子の顔に直撃した。
「ぶわっ! 何なの!!」
咄嗟に腕を伸ばし、瓶を遠ざけるが、時すでに遅し。顔周りはぐしょぐしょに濡れてしまっていた。
困惑しながら顔を拭うと、そこには満面の笑みの雄介と雄二がいた。
「やーい! ひっかかったぁー!」
京子は唖然とした。全て演技、いたずらだったのだ。
「いくぞ!」と、一目散に逃げ出す雄介と洋二。
その時、京子は、自分の血管がピキピキと音をたてるのを聞いた。
「こ、この……クソガキどもー!!」
京子は、恥じらいも、おしとやかさもかなぐり捨て、全力で二人を追いかけるのだった。
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