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陽葵咲名。
前世と同じ字で同じ響きの名前。
憂鬱さを覚えながらも、咲名は白兎高校、2年F組の教室へと入る。
いつも通り、賑やかで騒がしいクラスだ。
男女共に仲が良い。
今日は朝一のホームルームで、学園祭の出し物についての話合いがある。
それもあって、今日は何時にも増してそわそわと落ち着きがない。
咲名が席に着くと、前の席の赤坂菜穂が咲名へ「おはよう」と声を掛けながら振り返る。
咲名とは、1年の時も同じクラスだったよしみから、話す機会の多い子だ。
「ねぇ知ってる?龍崎君、また告白されたみたいだよ。まぁ案の定、振った様だけど。そもそも、龍崎君には舞が居るしね」
「そうだね」
龍崎透夜。
1年の時は別クラスだったが彼の噂は耐えず咲名の耳にも届いていた。
見た目よし、成績も優秀、運動神経抜群。
何処か達観した冷静さを見せる透夜は、今期二学期からは強い推薦を受けて生徒会副会長の座にも付いている。
そんな彼は当然もてる。
彼に恋心を抱く無謀な挑戦者達が後を絶たない。
そんな透夜は、自身の幼なじみの紺野舞と付き合っていると囁かれている。
面倒見が良く、儚げで清楚な落ち着いた雰囲気を纏う舞もまた、憧れの存在として白兎高校では知らない者は居ない。
透夜と舞は、一緒に見掛ける事が多い。
とても絵になる似合の二人だ。
そしてこの二人が、今の咲名を憂鬱にさせている最大の原因でもある。
透夜は、前世の想い人。
舞は、仕えていた主人。
二人もまた、咲名と同じく、名も姿形も前世と同一である。
今の咲名とは、挨拶程度の差し障りないクラスメートと言うだけの関係性。
前世の記憶が戻ったからなのか、感情も当時に影響され、咲名は無意識に二人の所在を探す様になってしまった。
おまけに、二人がやたら光輝いて見えると言う現象に悩まされている。
ーーーー前世の私よ、どれだけ二人の事を好いていたのよ。
*****
「陽葵ちゃんさ、良かったら此処で働いてみない?看板娘やってくれると嬉しいんだけど」
そう緩やかボイスで咲名を誘ってきたのは、喫茶店「茶々介」のオーナーの春。
春は、優しい笑顔に、ふんわりとした喋り方をする、とても和やかな男性だ。
咲名は今、春特性の咲名用ブランドココアを頂き、学業の疲れを癒していた。
白兎高校からの通り道にあるこの店に、咲名はよく通っている。
「是非、働かせて下さい」
ここ最近の、激しく揺れる感情を少しでも鎮める為にも、働いて気を紛らわす方法は最適かもしれない。
時間が空くと、厄介な事に舞と透夜の事を思い浮かべてしまう。
「ありがと。一応、親御さんの許可もとってからまたお返事くれるかな。大事な娘さんをお預かりする訳だからね」
「はい、分かりました」
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