イミテーション石油

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「いらっしゃあせー! お客さん、レギュラーでよかったですかい?」 「レギュラーでいいですかって? お前のとこのガソリンスタンドじゃあレギュラーじゃない『準レギュラー』のガソリンでもあンのかよ」 「いやぁ、そういう意味じゃないんすけど」 「んじゃあ『補欠』のガソリンとかか?」 「あのですね。お客さん」 「それとも何か? 準でも補欠じゃなければ『イレギュラー』なガソリンがあるとでも?」 「ヤな客に当たったね、どうも」 「何か言ったか?」 「いい、いえ何も」 「だったらあれか、お前ンとこではレギュラーならぬ『アングラなガソリン』でもあるってのか、ああ?」 「酔ってんですかい? そんなことを言われてもですね」 「だから、他にねーのかって聞いてんだよ!」 「ええっと、他ですとハイオクがありまして」 「ハイオク高いんだよ! このボロ車にンな金使えるか! 安いのはねーのか」 「軽油ならレギュラーより安いですが」 「エンジンがブッ壊れるわ! そうじゃなくて『安いガソリンだせ』っての!」 「困った客だね、どうも。でしたら『あと少しでレギュラーになれたのに』っていう『準レギュラー・ガソリン』ってぇやつが」 「あるのかよ!」 「ドラフト上位指名だったものの、成績が振るわなくって自由契約寸前で燻っているガソリンが」 「プロ野球か! つーか、そんなエンストしそうなガソリン使えねーよ!」 「でしたら『補欠ガソリン』ってものが」 「高校野球のベンチかよ! てか、ガソリンに補欠とかあるのかよ!」 「30年ほど前に買って眠ったままの缶がありましてね。走るかどうかはわかりませんが……これなら2割引きします」 「リスクの割に引き率が低くすぎだろ! もうねぇのかよ」 「ええっと、だったら『イレギュラーガソリン』というものが」 「それもあるんかい!」 「間違って半分ほど灯油が混ざった『イレギュラー』品なんすけど、これなら半額で」 「そんなん入れたら、蒸気機関車みたいに黒煙吐くやろ! 目立ってしゃーないわ!」 「でしたらですね。ここだけの話ですけど『アングラガソリン』ってのが」 「何が入ってねん、それぇ!」 「大丈夫、一応はちゃんとした合法品なんで」 「脱法ハーブみたいに言うなや!」 「では準レギュラーと補欠とイレギュラー、アングラを混ぜて、満タン入りまーす!」 「そんなんで走れるかい、もうええわ!」 おあとがよろしいようで。。。
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