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「お返事待ってまぁす、と書いてあるけど、どーすんの?」
おそらく真っ赤な顔をしているだろう僕に、野々山くんがゲス顔で聞いてくる。
「ど、どうもこうも! 誰に返事をすればいいのか分からないから、しようがないけど?!」
そうなのだ。
ラブレターには『宛名』は書かれていたが、『誰からか』が分かる署名がなかった。
「『二年前の冬、はじめて会った時のことを覚えていますか?』ってあるけど、心当たりねぇの?」
「全ッ然ない!」
二年前の冬となると、中三の冬だ。
そのころの記憶は、受験勉強が大変だったということしかない。
「本当に? おーい、好きな相手に忘れられてるラブレター書いた人誰ー? 手ぇ上げてー」
野々山くんが黒板をバシバシ叩きながら、教室中に呼びかける。
「はーい! ウッソでーす!」
「オレオレ! って、んなワケないし!」
僕を囲む野次馬の中の数人が手を挙げ、ゲラゲラ笑いながらしょうもないことを言う。
何という低レベルなからかい地獄……最悪だ……と、僕が絶望しかけた時だった。
ガンッ! と、騒がしい空気を切り裂く大きな音がした。
音がした方向を反射的に見れば、窓際の一番後ろの机が無惨に倒れ、その席の主である長身のクラスメイトが立っていた。
「――朝からピーピーぎゃぁぎゃぁ、ウルセェんだよ」
地を這うような不機嫌全開の低音で、彼が言う。
鋭い目でこちらをにらむ彼の名前は、黒須レイ。
学年一のイケメンで成績優秀者だが、濃紺の学生服を着崩し、金髪ベースに黒メッシュを入れている不良だ。
我が校は比較的品行方正な進学校だというのに、何故彼のような不良がいるのか、僕は高一の時から疑問に思っている。
ただ同時に、高二なのにいまだ中二病を患っている僕は、異端者である彼に結構憧れていたりもして。
「その手紙は俺のだ」
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