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緊張で感情がバグってる? それとも、黒須くんが男前すぎること言ってくれたから?
分からないけど、今は競技に集中しなきゃ。自分の感情について考えるのは、走り終えてから!
僕は一発自分にビンタして気合いを入れ直し、黒須くんと一緒にスタートラインに立つ。
「位置について、よーい……」
パァン! と、スターターピストルが開始の号砲を鳴らす。
「行くぞ梅木! 外側の足から一・二、一・二!」
「うんっ!」
黒須くんのかけ声にあわせ、必死に足を動かす。
大丈夫。僕はできる。黒須くんと一緒にたくさん練習したんだから。
グランドをぐるっと一周、黒須くんの声と歩幅にあわせることだけ考えて走り、ゴールテープを切る。
「やった! 僕ら一番だよ、黒須くん!」
「おうよ! だから大丈夫だって言ったろ!」
足をしばるヒモをとった後、黒須くんはジャンプして喜ぶ僕の肩を右手で抱き、左手でわしゃわしゃと僕の頭をなでる。
嬉しさが爆発しているせいか、髪がぐしゃぐしゃにされているというのに、黒須くんのその手が不快どころか気持ちいい。
「練習頑張ったもんな。お互い、おめでとうだ!」
すっごくカッコよくて特別な人の、近距離からの満面のキラキラ笑顔。
僕のこれまでの人生の中で一番まぶしくて、直視できないはずなのに、目が離せない。
彼を見つめること以外を放棄した、棒立ちになった僕を、黒須くんが抱きしめる。
僕を包み込む彼のたくましい身体、鼻腔に届く彼の汗まじりの体臭。
彼を感じるたびに、心臓がおかしいくらいドキドキするのは何故だ?
――あぁ、そっかぁ。そういうことかぁ……。
「すみませーん。この一位の旗持って、あっちに並んでくださーい」
体育委員に『1』の文字が書かれた旗を差し出され、数メートル離れた場所を指差される。
「はいよ。行くぞ、梅木」
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