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君の助言のせいで、僕は愛する人を失うんだ
「ネビー様。お願いです。婚約解消を。私からではできないのです」
「リッチェ。僕がいるのに、どうしてネビーに頼むんだ?」
「だってポペロ様ご自身が、いつもそうされてるじゃないですか?」
「へ?」
「ずっと嫌でした。二人が仲良く話すのを眺める時間が。早く帰りたくてたまりませんでした。結婚生活を想像すると泣きたくなりました」
「だったらもうネビーは呼ばないから。仕事なんてやめてくれ。君は僕のスケッチを幸せそうに描いていてくれればいんだ」
仕事なんか?
幸せそう?
一緒にいても、よく知らない他人のままだったとわかる。
「することがなく暇だから、スケッチしただけです」
「そうだったのか。謝る。ネビーと話すのが楽しんだと勘違いしてたんだ」
「もし少しでも私を想ってくださるなら、婚約解消を」
「わかったよ。それがリッチェの幸せなら」
「ずっと私は、婚約者同士で話したかったんです。最後に話せてよかったです。ありがとうございます」
「だったらリッチェ。私はどう?」
「え? クレイバー様は、今日お会いしたばかりでしょう?」
「母が絶賛しててね。会ってみて、私も君に夢中になってる。結婚前提で、考えてみてくれないかな?」
「はい」
「リッチェ。ひどいわッ! これじゃあ、あまりにポペロがかわいそう」
「申し訳ありません。一生こんなふうに口を出されると思うと、恐ろしくてたまらないのです。モード夫人は一緒にいて楽しいのです!」
「周りは関係ないでしょう?」
「いいえ。友人のガーラを大切にしてくださる、モード夫人を見て嬉しくなりました。周りは関係あります!」
「ネビー。もうやめてくれ。君の助言のせいで、僕は愛する人を失うんだ」
驚くことにポペロ様は、これだけ世話になっておきながら、ネビー様を責めた。
そして! モード夫人とガーラと私で、世界中でレースを売った。
流行というものは一過性。二年で売れなくなったけど。
それでも、凄く楽しい経験だった!
ものすごく儲かったし。
ポペロ様とネビー様は何度か訪ねていらしたけど、私は不在。
相変わらず二人一緒だし、事前に知らせてくれない。
私がちょっとした「時の人」だったこともあり、破談は噂になってしまった。
「三人デートは嫌すぎる───」
と、令嬢たちからポペロ様は毛嫌いされてしまっている。
「次はどんな流行を作ろうかしらね。ガーラはまた儲けたんでしょ?」
「はい。『私こそが成金です!』と意気込んでいました」
義母となったモード夫人と、お茶するのは楽しい。
ガーラは実家の領地に残り、下着で一旗揚げた。
「父上は商売の先輩だ」
クレイバーは次期侯爵なのに、爵位関係なく私の父を尊敬している。
私も、私の周りも大切にしてくれる。そして大金持ち。
「リッチェ。愛してるよ」
「私も。モード家に嫁げて幸せです」
「金持ち最高だもんな!」
お金はあった方が楽しいのだ。
ポペロ様。
あのネビー様が熱を出した日。
全ては、あの日のポペロ様自身の選択で変わったのよ。
ネビー様のせいじゃないわ。
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