かまってあげなきゃ。かわいそうよ

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かまってあげなきゃ。かわいそうよ

「ポペロは私がいないとだめなの。ごめんなさいね」  婚約者ポペロ様を訪ねると、いつも婚約者の従姉もいる。 「リッチェ。今日は三人でボートはいかが?」 「どうぞお二人で。私は水が苦手なので」  婚約者が従姉とボートに乗る。  暇なので、一人でスケッチ。  だめだ。涙が出てしまう。水が苦手は嘘。身を引いただけ。  私はリッチェ。成金男爵令嬢。  領地のワインは世界一と名高く、お父様は世界中に売りに行く。  私の婚約者ポペロ様は顔がいい。  金で買われた美形伯爵家三男と巷で噂。  たぶん、従姉のネビー様に恋してる。  ネビー様にしか話しかけず、私がいないかのように扱う。  そう。お邪魔虫は私。美しい二人は絵になる。  ポペロ様を訪ねたのに、一言も交わさず帰宅する。  今日も、疎外感で、胸を締め付けられただけだった。 「もっとリッチェをかまってあげなきゃ、かわいそうよ」  なんてネビー様が言っても無駄。私を見もしない。  私にはわからない二人の話を聞くのは、惨めだった。 「お父様、婚約を解消できませんか?」 「婚約を望んだのは、伯爵家だぞ?」 「お金のためでしょう? ポペロ様といると惨めで悲しくなります」 「こちらからは断れないんだ。リッチェを大切にするよう頼んでみる」  すると、我が家を訪ねてきたのはネビー様。 「安心して。私が仲を取り持ってあげる」 「いいえ。結構です」 「任せて。ポペロは、成金男爵家だとしてもリッチェが大好きなんだから」 「……」 「来週の舞踏会で仲直りすればいいわ」  ポペロが好きなのはご自分ですよと教えてあげたい。  そして、私を苦しめるのも、ご自分ですよと。  愛されないのに婚約解消できない。  不幸まっしぐらの道を無理矢理歩かされるみたい。 「さ。婚約者様がお迎えになりましたよ」  舞踏会なんて行きたくない。  私は友達もいないし、なんなら成金と蔑まれる。  ただ、侍女が張り切って着せてくれたドレスは、成金だけに素晴らしい。 「素敵なレースね」 「実は、領内でレース編みが大流行なんですよ。リッチェ様も習ってみます?」 「ぜひ。楽しそう!」  根が暗い私は、地味で黙々とした作業が好き。 「すみません。ネビーが熱を出し、リッチェをエスコートできなくなりました」 「熱……」 「ネビーは身体が弱いのです」 「そうでしたか。ポペロ様、お大事にとお伝えください」  去っていく馬車を、ぽつんと見送る。  足取り重く馬車まできて、これ。  どうやら相当ポペロ様は、私と二人は嫌らしい。   「まあ。すっかりお迎えだと。申し訳ありません。でしたら、リッチェ様。レース編みを習いに行きましょう!」  領内の裁縫店に向かうと、女性たちで大賑わい。  すごく巧い人もいれば、私のような初心者もいる。  私は歳の近い初心者の隣に座った。 「売れるか売れないかは、技術よりも、デザインが物をいうんですよ」 「売るために作ってるの?」 「そりゃそうですよ。葡萄畑は繁忙期ばかりじゃありませんし、かぎ針一本で儲けられるんですもん」  店内を見回すと、確かに二つと同じデザインのレースはない。 「幾何学的だったり、植物モチーフだったり、確かにアイデア勝負ね」 「舞踏会で最新デザインが見れたらなぁ──」 「わかった。明日もこの時間にここに来て。名前は?」 「ガーラです」 「私はリッチェ。また明日ね!」  よし。儲けよう! なぜなら私は、成金の血を引く娘!
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