お友達は選ばないとね

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お友達は選ばないとね

 そして私は、舞踏会に。  レースを盗み見た後、隠れて模様をスケッチする。  これを二十回繰り返した。  必死なので、ぼっちも気にならない。  婚約者が従姉と話し、ぽつんと寂しい、いつもの舞踏会と違う。 「なぜ私を見てらっしゃるの?」 「あまりに素敵なドレスで! 優雅で繊細。なんて素晴らしい!」 「あらわかる? ベチネアから取り寄せた布なの」 「なるほど。見事だと思いました──」  突然、貴夫人に話しかけられて驚いたけど、和やかに話せた。  このモード夫人は、貴族特有のツンとした感じが一切ない。  そして翌日、スケッチを持って裁縫店に。 「リッチェ様は、絵がお上手ですねぇ」 「これを超えるレースを作れれば、売れるんじゃないかしら?」 「越えなきゃダメですか?」 「そりゃそうよ。同じなら、人はベチネア製を選ぶわ」 「先生に相談しましょう」 「そうね!」  そして一ヶ月後、裁縫店の先生を中心に、二十点のレースを完成させた。  舞踏会で、モード婦人を探す。 「見て頂きたいレースがあるのですが」 「なぜ私に?」 「センスが良く、目が肥えてらっしゃるからです」 「わかりました! 隣のサロンに移りましょう」  二十点のレースを、一つ一つ、もったいぶって机に並べる。 「いかがでしょう。領内で作成しました。売れるでしょうか?」 「ええ。もちろん! 私も。私の友人も喜んで買うわ」 「よかった!」 「全部買うわ。一つ、金貨一枚でどう?」  そんなに高く!? と驚いたけど、頑張って表情には出さない。 「喜んで。ご友人も紹介して頂けると」 「もちろん。もしかして、オリジナルデザインもできる? 白以外は?」 「完成まで、お時間を頂ければ」 「スズランの花が好きなの。でも葉の緑色が強すぎても嫌で──」  私はスケッチブックを出し、モード婦人の指示通りに描いた。 「来月、私の屋敷にいらして。買ってくれそうな方を集めておくから」 「ありがとうございます!」 「いいのよ。一ヶ月間、私は流行の最先端なんだから。そろそろ、みなさん春に向けたドレスを作る時期よ。花柄をこの十倍増やして」 「かしこまりました!」  そして、舞踏会に戻り、ドレスを眺めスケッチしてから帰った。 「お父様。レースが金貨二十枚で売れたの!」 「その値段は秘密にしなさい。ただのご祝儀だ。次回以降は、そんなに高く売れん。変な期待をさせちゃいけないから」 「でも来月までに、十倍作れと」 「リスキーだな。よし絹糸を安く買いに行こう」 「どこに?」 「絹糸は東方からシルクロードで運ばれてくる。ワールドバザールで安く買える」 「ワールドバザールは異国でしょう? 買うにも時間がかかるわ」 「船で十日だ。金貨十五枚を絹糸代に、残りを作業者に分配するといい」 「わかりました」 「先生。またスケッチを描いてきました。来月までに二百枚、作って欲しいのです。これを皆さんで分配してください」 「金貨を!?」 「はい。作業してくださる皆さんで。もっと人を集めて欲しいのです」 「こんなに頂けるのでしたら人はいくらでも。ですが、二百枚となると絹糸が」 「糸を買って、十日で戻ってきます!」 「すごい! 船なんて初めて! さすがお貴族様です!」 「貴族は関係ないわ。成金だからよ。お父様の交易のついでなんだもん」  ガーラと私は、ワールドバザールで買い物。  東方の絹、綿、砂糖、瑠璃、扇子、陶磁器、ダイヤモンド!  彩り豊かに並ぶ! 楽しい!  買って帰ると、また家にネビー様がいらっしゃってた。 「最近、誘ってもポペロに会いにこないでしょ? 心配で」 「ちょっと異国に」 「ご旅行? ご一緒したかったわ。三人なら、もっと楽しかったはずよ」 「ええ。いつか。ぜひ。ただ、ちょっと今日は友人と用事がありまして」  ネビー様はちらりとガーラを見て、私に助言した。 「今は男爵家でも、伯爵夫人となるのだから、お友達は選ばないとね」  この瞬間、ネビー様は煩わしい婚約者の従姉から、嫌いな人になる。  人懐っこいガーラこそが、私が変わるきっかけをくれた人。  最近は忙しくて、楽しくて、婚約者もその従姉も、せっかく忘れてたのにな。
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