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みっともない
そして、ガーラとモード夫人の屋敷へ。
「本当に二百も用意したのね。見事だわ! さあ。二人とも、このドレスを着て」
「私は平民です」
ガーラは怯え、慌てる。
わりと世間知らずで天真爛漫だったのに、ネビー様の一言で、完全に貴族に委縮してしまった。
「違うわ。マネキンよ! 私たち三人で購買意欲を促進するの」
モード夫人は、前回渡したレースを使いドレスを作っていた。
「私のドレスでも、雰囲気が変わっていいわね! さあ。売るわよぉ!」
モード夫人のサロンは広く、五十人もいる!
二百あるレースは奪い合いで、さらに追加注文も入った。
「リッチェ、ガーラ、来月リパに行きましょう! あそこで売れたら本物よ」
「ええ!?」
「安心して。嫁いだ妹に手紙を書いたから」
「ありがとうございます」
「もっとオリジナリティを出せる? 鳥、蝶、貝殻のレースもいける?」
「もちろんです!」
「息子の商売のついでもあるから、船は息子が出すわ」
「さすがにそこまでは」
「私自身が勝負したくてワクワクしてるのよ!」
「そんなに売れたのか。凄いじゃないか!」
「でもお父様。みなさん、本業は葡萄でしょ。レース作りで疲れさせてしまうわ」
「嬉しい悲鳴だな。だったら、領内に声をかけて、もっと人を集めよう。裁縫店じゃなく、屋敷を使えばいい。広いんだから」
「あら。どなた?」
「日程の詳細を詰めに。モード家のクレイバーだが。貴公は?」
「ポペロはリッチェの婚約者。私はポペロの従姉。お話に参加しても?」
モード夫人の御子息と行程相談中に、ポペロ様とネビー様がいらしてしまった。
なんて運が悪い。
「申し訳ありません。いらっしゃるなら、事前に教えて頂かないと」
「あら。婚約者なのよ? 愛しい人に会いたい時に来るわ」
「では、少々お待ちいただけますか? 旅の日程を決めてしまいますので」
「旅? 婚約者がいるのに他の男と?」
「モード夫人との仕事の旅ですから」
「みっともない。許されることではありません」
「お気に召さないようでしたら、婚約を解消して頂けないでしょうか?」
「なんですって。ポペロはリッチェを愛してるのよ!」
「あのさ。不思議なんだけど、どうして婚約者同士で話さないんだ? 通訳かなんか?」
モード夫人の御子息クレイバー様が、首をかしげる。
私も不思議。慣れたけど。
「ポペロはリッチェが好き過ぎて、恥ずかしくなっちゃうのよ」
「情けない。だったら結婚なんて不可能だ。婚約解消したら?」
クレイバー様の言葉は、私が常々思ってること。
「絶対嫌だ。僕はリッチェを愛してるから」
「またまた。御冗談を」
ポペロ様はクレイバー様に話しかけたのに、つい、私が突っ込んでしまった。
さすがに信じられない。
「明るいリッチェに恋して婚約したんだ。なのに、つまらない僕といると、どんどん暗くなってしまう。だからネビーの助けまで借りたんだ」
「どなたかと勘違いしてるのでは? 私は絵が好きな根暗ですよ?」
またポペロ様はクレイバー様に話しかけたのに、私が突っ込んでしまう。
「いや。リッチェは根暗ではないよ。明るく元気だ」
「……それは、好きなことだけ熱弁しちゃうから……」
クレイバー様がじっと私を見つめるので、つい赤面し口ごもってしまう。
ポペロ様が私を見つめたことなんて、ただの一度もない。
私は男性に慣れてないのだ。
しかし、今こそ強くあらねば!
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