みっともない

1/1
前へ
/4ページ
次へ

みっともない

 そして、ガーラとモード夫人の屋敷へ。 「本当に二百も用意したのね。見事だわ! さあ。二人とも、このドレスを着て」 「私は平民です」  ガーラは怯え、慌てる。  わりと世間知らずで天真爛漫だったのに、ネビー様の一言で、完全に貴族に委縮してしまった。 「違うわ。マネキンよ! 私たち三人で購買意欲を促進するの」  モード夫人は、前回渡したレースを使いドレスを作っていた。 「私のドレスでも、雰囲気が変わっていいわね! さあ。売るわよぉ!」  モード夫人のサロンは広く、五十人もいる!  二百あるレースは奪い合いで、さらに追加注文も入った。 「リッチェ、ガーラ、来月リパに行きましょう! あそこで売れたら本物よ」 「ええ!?」 「安心して。嫁いだ妹に手紙を書いたから」 「ありがとうございます」 「もっとオリジナリティを出せる? 鳥、蝶、貝殻のレースもいける?」 「もちろんです!」 「息子の商売のついでもあるから、船は息子が出すわ」 「さすがにそこまでは」 「私自身が勝負したくてワクワクしてるのよ!」 「そんなに売れたのか。凄いじゃないか!」 「でもお父様。みなさん、本業は葡萄でしょ。レース作りで疲れさせてしまうわ」 「嬉しい悲鳴だな。だったら、領内に声をかけて、もっと人を集めよう。裁縫店じゃなく、屋敷を使えばいい。広いんだから」 「あら。どなた?」 「日程の詳細を詰めに。モード家のクレイバーだが。貴公は?」 「ポペロはリッチェの婚約者。私はポペロの従姉。お話に参加しても?」  モード夫人の御子息と行程相談中に、ポペロ様とネビー様がいらしてしまった。  なんて運が悪い。 「申し訳ありません。いらっしゃるなら、事前に教えて頂かないと」 「あら。婚約者なのよ? 愛しい人に会いたい時に来るわ」 「では、少々お待ちいただけますか? 旅の日程を決めてしまいますので」 「旅? 婚約者がいるのに他の男と?」 「モード夫人との仕事の旅ですから」 「みっともない。許されることではありません」 「お気に召さないようでしたら、婚約を解消して頂けないでしょうか?」 「なんですって。ポペロはリッチェを愛してるのよ!」 「あのさ。不思議なんだけど、どうして婚約者同士で話さないんだ? 通訳かなんか?」  モード夫人の御子息クレイバー様が、首をかしげる。  私も不思議。慣れたけど。 「ポペロはリッチェが好き過ぎて、恥ずかしくなっちゃうのよ」 「情けない。だったら結婚なんて不可能だ。婚約解消したら?」  クレイバー様の言葉は、私が常々思ってること。 「絶対嫌だ。僕はリッチェを愛してるから」 「またまた。御冗談を」  ポペロ様はクレイバー様に話しかけたのに、つい、私が突っ込んでしまった。  さすがに信じられない。 「明るいリッチェに恋して婚約したんだ。なのに、つまらない僕といると、どんどん暗くなってしまう。だからネビーの助けまで借りたんだ」 「どなたかと勘違いしてるのでは? 私は絵が好きな根暗ですよ?」  またポペロ様はクレイバー様に話しかけたのに、私が突っ込んでしまう。 「いや。リッチェは根暗ではないよ。明るく元気だ」 「……それは、好きなことだけ熱弁しちゃうから……」  クレイバー様がじっと私を見つめるので、つい赤面し口ごもってしまう。  ポペロ様が私を見つめたことなんて、ただの一度もない。  私は男性に慣れてないのだ。  しかし、今こそ強くあらねば!
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加