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ーーその日は本当に、疲れて、疲れ果ててて。
尚且つ、部長から大物芸能人の大麻絡みの案件引き受けてもうたから、マスコミやら何やかんや外回りの雑務もエグくて…
やっと一息つけて、着替え取りに家に帰れる時間が出来たけど、帰るまでの道のりすら苦痛で、重い脚で必死にチャリ漕いで、やっとの思いで帰宅したんは、深夜0時近かった。
玄関に倒れ込んで寝てしまいたい衝動を何とか抑えて居間に行くと…
「藤次さん!お帰りなさい。大丈夫?」
パジャマ姿で、心配そうにワシを見上げる…君。
「メール見たわ。取り敢えず今日はお家で寝れるのよね?ご飯」
「いらん。つか無理。風呂は?」
「えっ?あ、うん。沸いてるわ、よ?」
「ほんなら、入って寝る。お休み。」
「あ、う、ん…」
とにかく疲れてて、ネクタイ解いてスーツを乱暴に脱ぎ捨ててシャツとパンツだけで脱衣場行ってそれも脱いで、身体適当に洗って烏の行水程度の湯船に浸かり出ると着替えが用意されてたから着替えて、2階に上がりベッドに入った瞬間、盛大にため息をつき枕に顔を埋める。
「あー…久しぶりに柔らかい布団で寝れる。幸せ…」
言って眠ろうとしたら、心に余裕ができたんかフッと、先程絢音に言った言葉が甦る。
「(いらん。つか無理。)」
「…え。ワシ…絢音の料理、拒否ったん、か?」
サッと、頭から血の気が引く。
夜遅く帰って来たのに、寝ずに待っててくれた上、あったかい飯用意しててくれたのに、疲れてたとは言え、それ拒んだ上、スーツ脱ぎっぱなし、着替え出してくれてたのにお礼も言わずにさっさと寝てるワシって……客観的に見て、離婚待った無しな、身勝手サイテー野郎やないか?
何より、愛しい絢音にぞんざいな態度取って、嫌われたかもしれん思うたら、眠気なんて吹き飛んで、慌ててベッドから飛び起きて階下に降りる。
「絢音!!」
「えっ?藤次さん、寝たんじゃない…きゃっ!!」
スーツを片付けていた絢音を抱きしめて、泣きながらごめんと何度も何度も口にすると、彼女の手が背中に回り、優しく摩られて宥められるから、恐々腕を緩めて顔を見ると…
「大丈夫。何にも怒ってないから。謝らないで。お仕事大変だったんでしょ?ゆっくり休んで。ね?」
「絢音…」
…ああ。
やっぱりワシ、絢音が好きや。
何置いても、何捨てても、
この娘だけは、失いとうない。
身勝手極まりない態度とったのに、文句言わずに、逆に労わってくれる君が愛しくて、愛しくて、もう一度強く抱きしめた時やった。
安心した腹が、盛大に空腹の悲鳴を上げたのは。
「あ…」
真っ赤になるワシに対して、君はコロコロと笑い出したから、バツが悪うて恥ずかして俯いてると優しい声が耳を撫でる。
「疲れて帰ってくるだろうと思ってたから、消化にいい雑炊作ったの。温めるから、待ってて。」
「あ、うん…あの、あのな、絢音。」
「うん?」
不思議そうにワシを見上げる、愛しい愛しい君を強く胸に抱いて、精一杯の想いを込めて囁く。
ホンマにごめん。
そやし、いつも支えてくれて、おおきに。
と。
ほしたら、君は花のように微笑み、そっとワシに耳打ちする。
「藤次さん、好きよ。ずっと、側にいさせてね。」
「うん。」
頷き、君の唇にキスをして、君の手料理を食べて、君を抱いて眠り、翌朝新しい着替えを詰めたリュックを担いで、君の笑顔に見送らせて家を後にする。
「おはよう。京極ちゃん。」
「おはようございます。検事。」
軽く挨拶して席に着くと、京極ちゃんが盛大にため息をつくもんやから、ワシは頭を上げる。
「な、なんね。朝から辛気臭いで。そんなんやと仕事」
「別に。ただ、昨夜はさぞ奥様に癒されたんだろうなぁって、思っただけです。」
「な、なあっ……」
真っ赤になるワシの顔見て、京極ちゃんはまたため息をつく。
「ダダ漏れですよ。幸せオーラ。ホント、倦怠期知らずのお熱いことで。でも、仕事はちゃんとこなして下さいね!ハイッ!!」
言って、うず高く積まれた書類をデスクにトンと置いて去っていく京極ちゃんを一瞥したのち、窓に映る自分の顔を見て、苦笑する。
「…さすが一番の相棒。よう見とるわ。」
窓に映る、締まりのないアホ顔をパンと叩いて気合いを入れると、ワシは眼鏡を掛けて目の前の書類の山に手を伸ばし、一刻も早く、愛する絢音…君の元に帰れるように、仕事に精を出した。
ホンマに、側にいてくれておおきにな。
愛しい愛しいワシだけの、
笑顔が素敵な、
女神はん。
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