アラブの至宝 14

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 そして、アムンゼンの説得を聞いて、リンは、考え込んだ…  「…」  と、考え込んだ…  それを、見た、アムンゼンが、追い打ちをかけるように、  「…ここにいる、葉敬さんは、台湾の大実業家…台湾の教科書にも載る、名経営者です…当然、人脈は、広い…そして、葉敬さんの隣のバニラさんは、有名なスーパーモデル…リンさんもご存じでしょ?…」  「…ええ…」  「…二人とも、凄い人脈を、持っていますよ…だから、このお二人に話せば、もしかしたら、力になってくれるかも、しれませんよ…」  アムンゼンが、熱心に説得する…  が、  その説得は、リンの心に、響かなかった…  「…坊やの言うことは、わかる…」  と、リンが、力なく、呟く…  「…でも、私が、欲しいのは、アラブ世界の力…」  「…アラブ世界の力…ですか?…」  と、アムンゼン…  「…別の言い方をすれば、アラブ世界の人脈…」  と、リン…  「…アラブ世界の人脈…」  「…アラブ世界に精通していなければ、力になれない…」  「…」  「…ごめんなさい…坊やが、せっかく、言ってくれてるのに…」  そう、言われると、アムンゼンは、なにも、言えんかった…  「…」  と、一言も、言えんかった…  が、  突然、バニラが、  「…オスマン…」  と、声を上げた…  「…オスマン?…」  と、アムンゼン…  ビックリした様子だった…  「…だって、オスマンは、サウジアラビアの王族でしょ?…」  バニラが、言う…  アムンゼンを見て、言う…  しかしながら、それを、聞いて、真っ先に声を上げたのは、リンでは、なかった…  葉敬だった…  「…バニラ…オマエ、サウジアラビアの王族の方と知り合いなのか?…」  と、驚いた…  「…どうして、知り合ったんだ?…」  と、葉敬が、聞く…  当たり前だった…  「…そんな偉い方と、知り合いなんて…」  と、葉敬が、続ける…  「…実に、幸運だ…」  と、葉敬…  「…だが、一体、どうやって、知り合ったんだ?…」  葉敬の質問にバニラが、黙った…  すぐには、答えれんかった…  葉敬には、黙っていたからだ…  このアムンゼンの正体や、オスマンのことを、黙っていたからだ…  隠していたからだ…  だから、少し考え込んでから、いきなり、  「…お姉さんが…」  と、私を名指しした…  …エッ?…  …私?…  私は、焦った…  焦ったのだ…  当たり前だった…  ここで、私の名前が出るとは、夢にも、思わんかったからだ…  が、  私の名前が出たのを、聞いて、今度は、葉敬が、考え込んだ…  「…そう言えば、お姉さんの力で、我が台北筆頭も日本のクールも、アラブ世界で、急速に、製品の売り上げが、伸びた…それは、お姉さんの人脈によるもの? …そのオスマンというサウジアラビアの王族の方と、知り合いだったから、売り上げが、伸びたということですか?…」  葉敬が、聞く…  この矢田に聞く…  私は、どうして、いいか、わからんかった…  わからんかったのだ…  だから、つい、すがるように、アムンゼンを見た…  アラブの至宝を見た…  が、  アラブの至宝は、いきなり、私から、目をそらした…  目をそらして、別の方向を見た…  …コイツ! 許せん!…  私は、思った…  これまで、さんざん、この矢田が、面倒を見て、あげたにも、かかわらず、目をそらすとは…  許せん!  許せんのだ!…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  いつまでも、考えているわけには、いかんかった…  葉敬の質問に、答えなければ、いかんからだ…  私は、少し、考えて、  「…マリアの保育園で…」  と、言った…  「…マリアの保育園で、どうしたんですか? お姉さん?…」  「…あの保育園は、この日本に滞在する、世界中のセレブの子弟が、通っています…そこで、知り合ったんです…」  私の答えに、葉敬は、少し、  「…」  と、考え込んだ…  考え込んでから、  「…なんだ? そういうことだったんですか?…」  と、陽気に笑った…  「…そうです…そういうことだったんです…」  と、私。  「…バニラさんが、仕事で忙しいから、私が、バニラさんの代わりに、マリアの通う保育園に行って、それで、知り合ったんです…」  と、言ってから、アムンゼンを見た…  わざと、見た…  「…それで、このアムンゼン君とも、親しくなって…」  「…アムンゼン君と?…」  と、葉敬…  「…そのオスマンさんは、このアムンゼン君の保護者らしいです…たしか、叔父さんか、なにかだと、聞いています…」  と、私は、葉敬に言ってやった…  わざと、言ってやった…  すると、途端に、アムンゼンが、当惑した…  明らかに、驚いた顔で、私を見た…  その顔を見ると、  「…オマエ…なんで、そんなことを、言うんだ…」  とでも、いう顔で、私を見た…  当然ながら、葉敬は、アムンゼンに、  「…それは、本当かい? アムンゼン君?…」  と、聞いた…  聞いたのだ…  が、  アムンゼンは、ビックリして、どう答えて、いいか、わからん様子だった…  いかに、アラブの至宝でも、いきなりでは、この事態に、どう対応して、いいか、わからん様子だった…  アムンゼンが、ビックリして、どう答えて、いいか、わからん様子を見て、葉敬が、さらに、  「…どうなんだね? …アムンゼン君?…」  と、重ねて、聞いた…  真剣な調子で、聞いた…  熱心な調子で、聞いた…  これは、葉敬の立場から、いえば、当然…  当然だ…  サウジアラビアの王族と知り合うことが、できるのだ…  ビジネス上の大きなチャンスを掴むことが、できるからだ…  ビジネス上の大きなチャンス=人脈を掴むことができるからだ…  だから、アムンゼンが、子供にしか、見えんにも、かかわらず、熱心に聞くのが、当然だった…  当然だったのだ…  葉敬が、あまりにも、熱心に聞くから、アムンゼンも、  「…ハイ…」  と、小さく、頷いた…  とてもではないが、この状態で、否定することは、不可能だった…  葉敬の圧が凄かったからだ(笑)…  いや、  凄すぎたからだ(爆笑)…  だから、答えんわけには、いかんかった…  まして、この場で、否定することなど、できんかった…  否定すれば、私やバニラが、なにを言い出すか、わからんからだ…  だから、否定するわけには、いかんかった…  アムンゼンは、  「…ハイ…」  と、小さく葉敬に答えた後、この矢田を物凄い目で、見た…  ずばり、睨みつけた…  が、  私は、ビビらんかった…  …ざまあ、見ろ!…  と、言ってやりたかった…  この矢田から、目をそらした罰さ…  と、言ってやりたかった…  が、  私が、そんなことを、考えていると、  「…アムンゼン君…そのオスマンさんを、私に紹介してくれないかな…」  と、葉敬が、いきなり、言い出した…  「…ぜひ、頼むよ…」  葉敬が、いきなり、アムンゼンに頭を下げた…  60歳前後の葉敬が、3歳の幼児にしか、見えないアムンゼンに頭を下げた…  さすがに、この事態に、アムンゼンは、どうして、いいか、わからんかった…  だから、助けを求めるように、私やバニラを見た…  交互に見た…  が、  私は、なにも言ってやらんかった…  これは、バニラも、同じだった…  私は意地悪で、言ってやらんかったが、バニラは、違う…  おそらく、アムンゼンが、偉過ぎるから、どう言っていいか、わからんかったのだ…  実は、こういうときは、このバニラの方が、この矢田よりも、常識がある(笑)…  それは、バニラは、スーパーモデルで、世界中を飛び回っているからだ…  だから、世界中の色々な人間と接している…  それゆえ、こういうときは、黙るのが、一番と、わかっている…  十分、わかっているからだ…  さらに言えば、アムンゼンとの関係…  正直、私の方が、バニラよりも、アムンゼンと、仲がいい…  だから、アムンゼンに親しく接することが、できる…  要するに、距離間が、近いのだ…  バニラは、アムンゼンを常に、  「…殿下…」  と呼び、敬っている…  が、  それは、別の言い方をすれば、距離を置いているということだからだ…  私が、  「…おい、アムンゼン…」  と、呼び捨てにするほど、バニラは、親しくないということだ…  だから、余計に、なにか、言えんかった…  この矢田のように、アムンゼンと親しくないから、余計に、言えんかったのだ…  アムンゼンを見ると、明らかに、当惑していた…  明らかに、動揺していた…  私は、それを見て、実に、面白かった…  実に、愉快だった(笑)…  この矢田に嫌がらせをするからだと、思った…  そして、アムンゼンが、どうするかと、興味深げに見ていると、いきなり、マリアが、  「…アムンゼン…パパが、聞いているでしょ? さっさと、答えなさいよ!…」  と、怒鳴った…  大声で、怒鳴った…  そして、それが、とどめだった…  アムンゼンの行動に、とどめを刺した…  「…わかったよ…マリア…」  と、力なく、アムンゼンが、呟いた…  アラブの至宝が、呟いた…  いわば、マリアに白旗を上げたのだ…  アラブの至宝といえども、女には、勝てない…  自分の好きな女には、勝てない…  それが、わかった瞬間だった(爆笑)…               <続く>
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