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そして、アムンゼンの説得を聞いて、リンは、考え込んだ…
「…」
と、考え込んだ…
それを、見た、アムンゼンが、追い打ちをかけるように、
「…ここにいる、葉敬さんは、台湾の大実業家…台湾の教科書にも載る、名経営者です…当然、人脈は、広い…そして、葉敬さんの隣のバニラさんは、有名なスーパーモデル…リンさんもご存じでしょ?…」
「…ええ…」
「…二人とも、凄い人脈を、持っていますよ…だから、このお二人に話せば、もしかしたら、力になってくれるかも、しれませんよ…」
アムンゼンが、熱心に説得する…
が、
その説得は、リンの心に、響かなかった…
「…坊やの言うことは、わかる…」
と、リンが、力なく、呟く…
「…でも、私が、欲しいのは、アラブ世界の力…」
「…アラブ世界の力…ですか?…」
と、アムンゼン…
「…別の言い方をすれば、アラブ世界の人脈…」
と、リン…
「…アラブ世界の人脈…」
「…アラブ世界に精通していなければ、力になれない…」
「…」
「…ごめんなさい…坊やが、せっかく、言ってくれてるのに…」
そう、言われると、アムンゼンは、なにも、言えんかった…
「…」
と、一言も、言えんかった…
が、
突然、バニラが、
「…オスマン…」
と、声を上げた…
「…オスマン?…」
と、アムンゼン…
ビックリした様子だった…
「…だって、オスマンは、サウジアラビアの王族でしょ?…」
バニラが、言う…
アムンゼンを見て、言う…
しかしながら、それを、聞いて、真っ先に声を上げたのは、リンでは、なかった…
葉敬だった…
「…バニラ…オマエ、サウジアラビアの王族の方と知り合いなのか?…」
と、驚いた…
「…どうして、知り合ったんだ?…」
と、葉敬が、聞く…
当たり前だった…
「…そんな偉い方と、知り合いなんて…」
と、葉敬が、続ける…
「…実に、幸運だ…」
と、葉敬…
「…だが、一体、どうやって、知り合ったんだ?…」
葉敬の質問にバニラが、黙った…
すぐには、答えれんかった…
葉敬には、黙っていたからだ…
このアムンゼンの正体や、オスマンのことを、黙っていたからだ…
隠していたからだ…
だから、少し考え込んでから、いきなり、
「…お姉さんが…」
と、私を名指しした…
…エッ?…
…私?…
私は、焦った…
焦ったのだ…
当たり前だった…
ここで、私の名前が出るとは、夢にも、思わんかったからだ…
が、
私の名前が出たのを、聞いて、今度は、葉敬が、考え込んだ…
「…そう言えば、お姉さんの力で、我が台北筆頭も日本のクールも、アラブ世界で、急速に、製品の売り上げが、伸びた…それは、お姉さんの人脈によるもの? …そのオスマンというサウジアラビアの王族の方と、知り合いだったから、売り上げが、伸びたということですか?…」
葉敬が、聞く…
この矢田に聞く…
私は、どうして、いいか、わからんかった…
わからんかったのだ…
だから、つい、すがるように、アムンゼンを見た…
アラブの至宝を見た…
が、
アラブの至宝は、いきなり、私から、目をそらした…
目をそらして、別の方向を見た…
…コイツ! 許せん!…
私は、思った…
これまで、さんざん、この矢田が、面倒を見て、あげたにも、かかわらず、目をそらすとは…
許せん!
許せんのだ!…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
いつまでも、考えているわけには、いかんかった…
葉敬の質問に、答えなければ、いかんからだ…
私は、少し、考えて、
「…マリアの保育園で…」
と、言った…
「…マリアの保育園で、どうしたんですか? お姉さん?…」
「…あの保育園は、この日本に滞在する、世界中のセレブの子弟が、通っています…そこで、知り合ったんです…」
私の答えに、葉敬は、少し、
「…」
と、考え込んだ…
考え込んでから、
「…なんだ? そういうことだったんですか?…」
と、陽気に笑った…
「…そうです…そういうことだったんです…」
と、私。
「…バニラさんが、仕事で忙しいから、私が、バニラさんの代わりに、マリアの通う保育園に行って、それで、知り合ったんです…」
と、言ってから、アムンゼンを見た…
わざと、見た…
「…それで、このアムンゼン君とも、親しくなって…」
「…アムンゼン君と?…」
と、葉敬…
「…そのオスマンさんは、このアムンゼン君の保護者らしいです…たしか、叔父さんか、なにかだと、聞いています…」
と、私は、葉敬に言ってやった…
わざと、言ってやった…
すると、途端に、アムンゼンが、当惑した…
明らかに、驚いた顔で、私を見た…
その顔を見ると、
「…オマエ…なんで、そんなことを、言うんだ…」
とでも、いう顔で、私を見た…
当然ながら、葉敬は、アムンゼンに、
「…それは、本当かい? アムンゼン君?…」
と、聞いた…
聞いたのだ…
が、
アムンゼンは、ビックリして、どう答えて、いいか、わからん様子だった…
いかに、アラブの至宝でも、いきなりでは、この事態に、どう対応して、いいか、わからん様子だった…
アムンゼンが、ビックリして、どう答えて、いいか、わからん様子を見て、葉敬が、さらに、
「…どうなんだね? …アムンゼン君?…」
と、重ねて、聞いた…
真剣な調子で、聞いた…
熱心な調子で、聞いた…
これは、葉敬の立場から、いえば、当然…
当然だ…
サウジアラビアの王族と知り合うことが、できるのだ…
ビジネス上の大きなチャンスを掴むことが、できるからだ…
ビジネス上の大きなチャンス=人脈を掴むことができるからだ…
だから、アムンゼンが、子供にしか、見えんにも、かかわらず、熱心に聞くのが、当然だった…
当然だったのだ…
葉敬が、あまりにも、熱心に聞くから、アムンゼンも、
「…ハイ…」
と、小さく、頷いた…
とてもではないが、この状態で、否定することは、不可能だった…
葉敬の圧が凄かったからだ(笑)…
いや、
凄すぎたからだ(爆笑)…
だから、答えんわけには、いかんかった…
まして、この場で、否定することなど、できんかった…
否定すれば、私やバニラが、なにを言い出すか、わからんからだ…
だから、否定するわけには、いかんかった…
アムンゼンは、
「…ハイ…」
と、小さく葉敬に答えた後、この矢田を物凄い目で、見た…
ずばり、睨みつけた…
が、
私は、ビビらんかった…
…ざまあ、見ろ!…
と、言ってやりたかった…
この矢田から、目をそらした罰さ…
と、言ってやりたかった…
が、
私が、そんなことを、考えていると、
「…アムンゼン君…そのオスマンさんを、私に紹介してくれないかな…」
と、葉敬が、いきなり、言い出した…
「…ぜひ、頼むよ…」
葉敬が、いきなり、アムンゼンに頭を下げた…
60歳前後の葉敬が、3歳の幼児にしか、見えないアムンゼンに頭を下げた…
さすがに、この事態に、アムンゼンは、どうして、いいか、わからんかった…
だから、助けを求めるように、私やバニラを見た…
交互に見た…
が、
私は、なにも言ってやらんかった…
これは、バニラも、同じだった…
私は意地悪で、言ってやらんかったが、バニラは、違う…
おそらく、アムンゼンが、偉過ぎるから、どう言っていいか、わからんかったのだ…
実は、こういうときは、このバニラの方が、この矢田よりも、常識がある(笑)…
それは、バニラは、スーパーモデルで、世界中を飛び回っているからだ…
だから、世界中の色々な人間と接している…
それゆえ、こういうときは、黙るのが、一番と、わかっている…
十分、わかっているからだ…
さらに言えば、アムンゼンとの関係…
正直、私の方が、バニラよりも、アムンゼンと、仲がいい…
だから、アムンゼンに親しく接することが、できる…
要するに、距離間が、近いのだ…
バニラは、アムンゼンを常に、
「…殿下…」
と呼び、敬っている…
が、
それは、別の言い方をすれば、距離を置いているということだからだ…
私が、
「…おい、アムンゼン…」
と、呼び捨てにするほど、バニラは、親しくないということだ…
だから、余計に、なにか、言えんかった…
この矢田のように、アムンゼンと親しくないから、余計に、言えんかったのだ…
アムンゼンを見ると、明らかに、当惑していた…
明らかに、動揺していた…
私は、それを見て、実に、面白かった…
実に、愉快だった(笑)…
この矢田に嫌がらせをするからだと、思った…
そして、アムンゼンが、どうするかと、興味深げに見ていると、いきなり、マリアが、
「…アムンゼン…パパが、聞いているでしょ? さっさと、答えなさいよ!…」
と、怒鳴った…
大声で、怒鳴った…
そして、それが、とどめだった…
アムンゼンの行動に、とどめを刺した…
「…わかったよ…マリア…」
と、力なく、アムンゼンが、呟いた…
アラブの至宝が、呟いた…
いわば、マリアに白旗を上げたのだ…
アラブの至宝といえども、女には、勝てない…
自分の好きな女には、勝てない…
それが、わかった瞬間だった(爆笑)…
<続く>
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