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陵辱
彩女が目覚めたのは丹沢山中にある
あの怪物の隠れ家だった。
白猿は風神の様な速さで、神奈川県
郊外の住宅地から、丘陵地帯を抜け、
丹沢山塊の奥深くまで彼女を運んで
来た。
◇◇
気がついた時、彩女は男の背中に爪を
立てていた。夢なのか現実なのか訳が
分からなかった。
〈白い猿に攫われて私は今、知らない
男に抱かれている…どうなってるの?〉
処女ではないが、彩女は二十五歳まで
身持ちを固くして生きて来た。
その自分が、見知らぬ男に陵辱されて
いるという事実が、なかなか受け入れ
られなかった。
だが三日も経つと、体が自然に反応し
てしまう。男が彼女の中で果てると、
彩女は官能の声を上げた。
「ああああーっ!」
◇◇
その男は憎めない顔付きをしていた。
年の頃は五十代半ば。
背の高い有名な俳優に似ている。
ハンサムだが三枚目の雰囲気。
事が終わると、アイツはいつも両手
を合わせ、謝る様な仕草をする。
「堪忍してくれ、堪忍してくれ」
と言いながら…。
◇◇
悪夢の三日間が終わると、彩女は男の
BT付寝室から別の部屋に移された。
その居室には十人ほどの女がいた。
あの三日間、時どき食事を運んで来て
くれた見覚えのある女達の顔もある。
その中の一人、美優が教えてくれた。
「アイツは化け物よ。普段は人間だけ
ど、夜になると白い猿に変身するの。
私、早くここから逃げたい」
彼女の隣にいた優里亜が口を開く。
「白猿の年齢は千歳。なかなか子供が
出来ないらしい。アイツは自分の子供
を作るために、時どき街から女を攫っ
て来るの。私は高二年の時、ヤツに攫
われた。あれからもう五年が経った。
アイツは私の青春を奪った」
その横にいた紗英が言った。
「白猿は犬の肉を食べるの。純真無垢
な犬を食べるなんて私絶対に許せない」
犬好きの彼女はそう言って、ボロボロ
と涙を溢した。
身体はセックスの快楽に反応しても、
決っして白猿を許さない彼女達の強い
気持ちを知って、彩女は心強く感じた。
◇◇
この悪夢の様な三日間は、その後の
彩女の人生に深刻な影を落とした。
やがて彼女は、自分が妊娠したことを
知る。
最初は白猿の子供を身ごもった自分が
許せなかった。
白猿に与えられた個室の中で、彩女は
何度も自殺を考えた。
だが彼女の中に宿った生命に罪はない。
迷った挙げ句、彩女は白猿の子を産む
ことになる。
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