怪物

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怪物

ホアグラの様な満月が中天にかかる頃、 立花彩女(あやめ)は異形の怪物に遭遇した。 ここは、丘陵地帯にほど近い神奈川県 郊外の住宅地。 彼女は会社の飲み会の後、深夜に帰宅 する途中だった。 彩女にはその怪物が虚空から突然出現 した様に見えた。 街路樹から、音も無くヒラリと飛び降 りて来た異形の怪物は、真っ白な体毛 に覆われた巨大な猿だった。 そいつは彩女の前に立つと、まるで 人間のような表情で牙を剥き出し、 こう言った。 「今夜お前を(さら)う、俺の妻になれ」 地獄の底から響く様な低い声だった。 彩女は突然の出来事に声も出ない。 あまりの恐怖に眼を見開き、唇をわな わなと震わせ、白猿を見上げている。 白猿(はくえん)の身長はニメートルを軽く超えて いる。体型はゴリラに似ていたが、前 足は地面に着けず、人間の様に二本足 で立っている。 白猿は彩女の体に手を回すと、あっと 言う間に彼女を肩に担いだ。 そして街路樹に飛び上がると、彩女を 抱えたまま街道沿いの並木伝いに物凄 いスピードで移動して行く。 彩女はやっとのことで悲鳴を上げた。 「ぎゃーああああ! 助けてー!  誰かー! 助けてー!」 だが彼女は、白猿の肩に揺られな がら、程なく気絶してしまった。
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