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「影武者?」
「跡継ぎの件でもめていてな。殿は内外から命を狙われておるのじゃ。それで、そなたには殿になりすまして皆の前に出てもらいたい」
「殿の代わりなどできませぬ。それに、命を狙われるのはおそろしゅうございます」
「作法は教える。何も話さなくてよい。ただ、いるだけでよいのだ。警護の者もつける」
警護の者をつけるのなら、影武者などいらぬのではないか、とも思ったが、それでも不安だから俺を影武者に仕立てるということなのであろう。
つまりは、危険を伴う仕事というわけだ。
まぁ、山仕事で腕っぷしには自信があるし、何より殿様に成り代われるのは面白そうである。
ということで、俺は「ニセモノの殿」になることを承知した。
城では、なるべく人目につかない部屋が与えられた。それはそうである。殿が二人もいたら大変だ。
髪も髭も整えられ、風呂にも入れてもらえた。
立派な着物も与えられ、毎日、うまいものを食わせてもらった。
この世にこんな極楽があったとは。
こうして、俺はニセモノの殿としての日々を過ごしていた。
殿には何人も子供がおり、跡継ぎで揉めているという。
それぞれの子らには重臣たちがついており、自分の仕えている子が跡取りになれば出世できるということで、火花を散らし合っていた。
中には、殿を暗殺して無理やり世代交代させようとする勢力もあるようで、殿は毎日を怯えて暮らしていた。
そこで、ニセモノの自分を立てて身を守ろうとしていたのである。
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