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ところがある日、俺は寝込みを襲われ、縄で縛られ監禁されてしまった。
「何奴! 無礼者!」
「無礼者とは穏やかではないですな。ニセモノの殿」
誰だこいつは。
俺がニセモノだと知っている者がまだいたとは……
やつは後ろを向き、こう言った。
「殿、捕縛しました」
殿だと?!
奥から出てきたのは……のっぺりした顔の太った男だった。
なぜだ!
なぜ殿が生きている!
あの時、しっかりとどめを刺して沼に沈めたはずなのに……
殿と呼ばれたその男は、俺の顔をまじまじと覗きこみ、こう言った。
「影武者よ、これまで大儀であったな」
ホンモノの殿は俺が間違いなく首を斬ったはず。
なのに、目の前の男にはどこにも傷がない。
こいつはいったい何者なのだ?
俺こそがホンモノだと、押し通してみるか……
「影武者などではない。ホンモノだ。影武者は以前はいたが、すでに殺した。今はいない!」
「何を言っているのか分からんのう。影武者を長くやっているうちに、自分がホンモノの殿になったと、勘違いでもしておるのか」
そう言って、のっぺりした顔の男は、不気味に微笑んだ。
俺を縛ったお付の男はこう言った。
「おまえは、殿がしばらく外遊に出ておる間だけの影武者という約束だったはずだ。影武者の分際で、何を偉そうに振る舞っておる。蔵の財物も使い込みおって。こんな男に影武者など、頼むのではなかった」
!
俺に影武者を依頼してきたあの殿は、実は殿ではなく、殿の影武者だったのか!
つまり、俺はニセモノのニセモノをさせられていたのか!
「影武者よ、影は影となって消えるがよい」
男は俺の喉元に刀を突きつけてくる。
俺は弁明した。
「そ、それがしは殿に頼まれた影武者ではございません! 殿の影武者に頼まれた影武者でございます!」
「何を訳の分からぬことを言っておる。死ぬのが怖くておかしなことを言い始めたのか? ははは……」
のっぺりした顔の太ったこの男こそがホンモノの殿だったのか……
「外遊して城を留守にすると、その隙を狙って謀反を企てる者がおるかも知れぬのでな。それで、お前には影武者になってもらっていたのだ。戻ってきた以上、おまえにはもはや用はない」
「か、影武者してこれからも働きます! どうか、命だけはご容赦を!」
「使い込んで蔵を空にするような影武者に用はない。消えよ!」
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