のっぺりさん

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「ま、待ってください!」 「ははは…………」  目の前ののっぺりした顔の男と、そのお付の者は、顔を見合わせて笑っていた。 「やはり、影武者が殿に成り代わっていたのか。噂は本当だったのだな」  何を言っているのだろうか?  俺には先ほどからぬぐえない違和感があった。  俺は贅沢三昧をして、太ってしまった。  外遊から帰ってきた殿も、なぜか俺そっくりに太っている。  こんな奇遇など、あるのだろうか?  その殿は、笑いながら言った。 「やはり、おまえは殿ではなかったのか」  意味がわからず呆然としている俺に、お付の者は言った。 「ホンモノの殿はおまえが殺したのだろう? 外遊していたなどという、くだらぬ嘘をまともに信じたおまえは、やはりなのだよ。こちらにおわすお方は、殿とそっくりな顔の、いわばニセモノ。外遊に行っていたなど、真っ赤な嘘だ。おまえがホンモノの殿なのか、ニセモノの殿なのか、今となってはどうでもよいこと。これからはこちらのニセモノがホンモノの殿となるのだから」  あぁ……世の中には同じような顔のものが幾人かいるとは聞いていたが……  ということは、目の前にいるのっぺりした顔の男は、殿のニセモノなのか。 「こちらのお方はな、のっぺりした顔をして殿にそっくりなのだが、いかんせん太っていて、これまでは入れ替わるのは無理だったのだ。しかし、おまえが贅沢をして太ってくれたおかげで、今なら誰にも疑われずに入れ替わりができる。蔵の鍵を甘くしておいて正解だったというわけだ」  俺の首に、深々と刀が差し込まれる。  ニセモノの殿としての人生は、ニセモノの殿によって終わらされた。   < 了 >
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