12人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、待ってください!」
「ははは…………」
目の前ののっぺりした顔の男と、そのお付の者は、顔を見合わせて笑っていた。
「やはり、影武者が殿に成り代わっていたのか。噂は本当だったのだな」
何を言っているのだろうか?
俺には先ほどからぬぐえない違和感があった。
俺は贅沢三昧をして、太ってしまった。
外遊から帰ってきた殿も、なぜか俺そっくりに太っている。
こんな奇遇など、あるのだろうか?
その殿は、笑いながら言った。
「やはり、おまえは殿ではなかったのか」
意味がわからず呆然としている俺に、お付の者は言った。
「ホンモノの殿はおまえが殺したのだろう? 外遊していたなどという、くだらぬ嘘をまともに信じたおまえは、やはりニセモノなのだよ。こちらにおわすお方は、殿とそっくりな顔の、いわばニセモノ。外遊に行っていたなど、真っ赤な嘘だ。おまえがホンモノの殿なのか、ニセモノの殿なのか、今となってはどうでもよいこと。これからはこちらのニセモノがホンモノの殿となるのだから」
あぁ……世の中には同じような顔のものが幾人かいるとは聞いていたが……
ということは、目の前にいるのっぺりした顔の男は、殿のニセモノなのか。
「こちらのお方はな、のっぺりした顔をして殿にそっくりなのだが、いかんせん太っていて、これまでは入れ替わるのは無理だったのだ。しかし、おまえが贅沢をして太ってくれたおかげで、今なら誰にも疑われずに入れ替わりができる。蔵の鍵を甘くしておいて正解だったというわけだ」
俺の首に、深々と刀が差し込まれる。
ニセモノの殿としての人生は、ニセモノの殿によって終わらされた。
< 了 >
最初のコメントを投稿しよう!