ケサランパサランモドキの物語

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 そのお化け……館長が「ケサランパサランモドキ」と名付けたが、通常は「ケサパサ」と呼ばれるようになった……は、一時的に資料館で預かることになった。  他の人間やお化け達とも触れ合ったこともなく、社会的なマナー(お化け界にもあるらしい)をまるで知らないから、まずお化けの中で経験を積ませることになったそうだ。幽玄は、もしもの時の連絡先を置いて、東京に出張していった。  預かってから数日は、館内のあちこちで白粉が降り、ラップ音(⁈)が鳴り響くので、SNSで少しバズった。  新型肺炎の脅威が日本に上陸したのは、そのあと。 ※※※ 「あっ、だめだよ!」  展示の子守り地蔵(複製)が粉をふいてるのを見つけて、青瀬は慌てて駆け寄った。お地蔵様の足元にモフモフ姿が現れて、大きな目を瞬く。 「展示コーナーと収蔵庫に入る時は、必ず体から粉を落としてね。ここにあるのはみんな大事なものなんだ」  学芸員は、何度目もの注意を辛抱強く繰り返しながら、お化けの体を拭いた(手応えはほとんどないが、白粉は落ちるから、効果はあるらしい)。  展示品を掃除する様子を大きな瞳で見つめられて、青瀬は迷った末に付け足した。 「……ごめん、僕はジッと見られるの苦手なんだ…掃除を見てたいなら、頭の上に乗っていいよ」  ぱふっ。  かすかな柔らかい感触と、白粉の匂い。 「これはね、親が働いてる間に子守りをしてくれたって伝説がある葦野のお地蔵さん。ちょうど川を挟んで南の堤下に似た形の岩があって、それが『子守り地蔵』と間違えられたりもしたんだけど」 先ほど綿毛が座っていたところをふく。 「今は、どちらも『子守り地蔵』として大事にされているんだよ。そんな歴史を学ぶための展示なんだ。大事にしてね」 頭上の綿毛はモソ、と動いた。  ひとけのない館内。青瀬は新参者のお化けに、展示物を解説して回るようになった。 ※※※ 「返すの?」 「ええ」  その日やって来た幽玄は、声こそ落ち着いていたしマスクで表情も分からないが、彼の疳の虫は暴れていた。綿毛のお化けはその一報に喜び、あたりに粉を散らしている。 「なんでまた急に…?」 「寂しいそうです」 「そっか。帰れてよかったね」  青瀬は桐の箱を丁寧に掃除して、霊能者に渡した。  資料館を後にする綿毛を、青瀬は複雑な気持ちで見送った。喜ぶべきことのはずだが、幽玄のやけに冷たい言い方が気になった。 ※※※
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