ケサランパサランモドキの物語

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 青瀬学芸員は、榊幽玄を……正確には、彼の頭に乗っかったモノを……見上げた。  真っ白く、わたあめのようにフワフワした何かは、上下に二つ並んだ大きな青い目から涙をボロボロこぼしていた。  若き霊能者は頭にタオルをかぶっていたが、すでにびしょ濡れで、受け止めきれない涙が顔にしたたっていた。 「え……っと、待ってて、タオル持ってくる」 「いりません。どうせすぐ濡れます」  幽玄は、無事なタオルの端で顔を拭いた。  福島県一会町・一会郷土資料館。  来館客よりお化けが多いで有名なスポットなので、職員の青瀬も多少の怪異に動じはしないが。 「これを」  幽玄は、小さな桐の木箱を青瀬に渡した。蓋に「ケサランパサラン」と書いてある。 「元々、ガガイモの綿毛が絡まってデカくなっただけのモノを、ケサランパサランだと思って大事にしたら、綿毛もそう思い込んで、化けたようです」 「ええ?」 「暴れて困る、と相談されたんですが、ケサランパサランですらないとわかった途端、処分してほしいと依頼が変更になりました」 「ええ……⁈」 「俺が引き取る代わりに依頼料を安くする、で交渉成立して連れては来たんですが…これからどうするか、ここのヌシたちにご相談したくて。いいですか」 「それは構わないけど……難しいお化けなのかい」 「そう難しくは…秒で除霊出来ます。でも」  幽玄の声は冷静だが、体からはみ出た疳の虫が、先程から暴れているのが見えた。静かに、だが怒っている。 「勘違いで化けるほど大事にしといて、福をもたらさないと分かったら処分、なんて……あんまり勝手じゃないですか」
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