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吸血鬼
俺は渾身の演技を披露した。
俺が演じたのは吸血鬼ドラキュラ伯爵。
普通のドラキュラは、最後に主人公に
殺されて死ぬ場合が多いが、俺の伯爵
は死なない。
話の筋は、簡単に纏めるとこうだ。
伯爵はある夜、美しい娘と巡り会う。
彼女は古い王家の血筋を引く貴族だった。
しかも遠い祖先は、伯爵家と深いつなが
りがある。
二人は運命を感じ、お互いに惹かれ合う
のだが、伯爵が吸血鬼であるという秘密
を知った姫は大いに悩む。
そこに良家の青年が現れて、彼女の相談
に乗るうちに、二人は恋に落ちる。
それを知った伯爵は激怒し、姫を攫う。
やがて青年は姫を救うため、吸血鬼の城
に単身で乗り込むのだが…。
◇◇
第一幕、張りのある俺の声が陰々滅々と
劇場内に響き渡り、客席はシーンと水を
打ったように静まり返った。
第二幕、俺はマントを翻しワイヤーロープ
で空を飛んだ。照明からは断続的なフラッ
シュが明滅し、俺の体は本当に空中を飛行
しているように見えた。俺が今回こだわっ
たシーンだ。客席からは、悲鳴とどよめき
が沸き起こった。
第三幕、伯爵とヒロインの掛け合いとラブ
シーン。客席からは、深い溜息が漏れた。
俺の体は観客の反応に痺れゾクゾクと鳥肌
が立った。究極の快感が俺の体を貫いた。
この感覚は役者にしか分からない。これぞ
演劇の真の醍醐味だ。
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