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掟と禁術
「出ていってくれないか」
夫にそう言われたのは、薬を盛り始めてから五日経った、ある日の夜だった。ロウソクの向こう側で揺れて見える彼の顔は、心なしか苦しそうだった。
執務室の机の上には、私が使っていた魔術薬が置かれていた。さっき自分の部屋の引き出しにしまったはずの薬は、何故か目の前の机の上に置かれていた。
目をしばたかせていると、伯爵であるリチャード様は、机の上に手を置いて言った。
「今まで、ありがとう。もう限界なんだ、私も・・・・・・」
「リチャード様? 仰っている意味が・・・・・・」
「何って、君の不貞だよ」
「不貞?」
「しているだろう? 庭師のサーシャと」
「庭師? サーシャ?」
「しらばっくれなくてもいい。子供は、サーシャとの子だろう? 流石に庭師の子に、伯爵の地位を譲り渡す訳にはいかないよ」
「リチャード様。私は浮気などは・・・・・・」
そう言われて初めて気がついた。ここ一年くらい、記憶が無くなる現象が増えていることを・・・・・・。疲れて思い出せないだけなのかもしれないと思っていたが、違ったのかもしれない。
「どうしたんだ?」
「いえ。少し前から、記憶が抜け落ちることがあるのです。疲れているだけだろうと思っていたのですが・・・・・・」
「マリー、伯爵家の掟の事は聞いているかい?」
「え? ええ・・・・・・」
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