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二重人格
「例え病気でも、君には出て行ってもらわなければならない。それが伯爵家の掟だから」
「屋敷全体に敷かれているという、魔術陣のことですか?」
本来なら禁止されている呪いの魔術陣だが、伯爵家は過去に何度か問題を起こしている。国から要請があり、特別に使用許可を得て使用していたが、まさか私が呪いにかかるとは。
「そうだ。伯爵家の当主やその家族、メイドや侍従、料理人までその範囲は及ぶ・・・・・。魔術陣の中で伯爵家への叛意が見つかれば、その対象者には呪いが掛かるようになっているんだ。この家を出なければ、近い内に君は死んでしまうだろう」
「・・・・・・」
私は自分自身の指先を見つめた。今まで気がつかなかったが、私は痩せてしまったようだ。痩せてシワが寄った指先に涙を落としながら、私は顔を上げた。
「君を愛していた。変わってしまった君も愛そうと努力したが、私には無理だったんだ」
私も貴方を愛していました──喉元まで言葉が出かかったが、口を噤んだ。私に愛していたなんて言う資格は無い。
部屋のドアが開き、見知らぬ男性が入ってきた。手を差し出され、私は見知らぬ男性の手を握った。手のひらは温かく、肩の力が抜けたが、知らない男性についていくのは、正直怖かった。
本当に愛していたのは、貴方だけ──そんな思いは、墓場まで持って行くしかない。本当のことを言えなかった私は、彼への想いと思い出を心の奥深くにしまい、心の内に鍵をかけた。
私は涙を拭うと家の門をくぐり、屋敷の外へ出たのだった。
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