時計台の贈り物

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 ソレには二人が鑑賞に値しない人間に映っていたが、ジャンと彼女の目がキラキラ輝くのを見て、自分と人間は美しさの基準が違うのだとソレは学んだ。    しばらくしてジャンは、今度は彼とそっくりな目鼻立ちをした赤毛の子どもを連れてきた。  ジャンは子どもにソレを紹介した。 「この時計台が父ちゃんの相棒だぞ。こいつのお陰でご飯を食えるんだから、ありがてぇこった」    ハンドルを動かしネジを巻いてもらって自分は動いている。  それが『ありがてぇ』ということだったのか、ソレは思った。 『ありがてぇ』を知ったソレは、少しだけ人間を好ましく思った。  妻、子ども。そして孫。  ジャンの話から人間には家族があることを知った。  いつの間にかジャンの髪の毛も、逝った男と同じ色に変わっていた。 「お互い歳をとったもんだ。よく考えてみたら、オメェとは人生で一番長く一緒にいたなぁ……相棒であり、オメェはオレの家族だな……」  そう話すジャンの言葉に酷い訛りはなくなっていた。  いつの頃か、ジャンがソレの所に来る回数が減っていた。  ソレはジャンがここに来ないと時間が分からないことをかわいそうに思った。  ある日ジャンの代わりに、若い日のジャンによく似た男がやって来た。  ソレはまた話が聞けると期待したが、ジャンと似ていたのは外見だけで、男は何も話さず掃除をし、ただハンドルを巻いて帰っていった。  人間は同じに見えて違うんだ。  ソレは思った。
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