都内泉質ナンバーワンの温泉に行った日のこと

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 静かに目を閉じている彼女は、神仏(しんぶつ)に祈っているのかもしれない。  もしかすると、 『どうか私の病を治してください』  とこの天然温泉に対して祈願しているのかも。  あるいは、自分のこれまでの人生をふり返っているのか……。  病に侵される前の彼女は、いったいどんな人生を送ってをいたのだろう。  華やかで(きら)びやかな世界で華麗に生きていたのかもしれないと思った。  それは単なる私の願望に過ぎないのかもしれないが。  病に侵される前も、彼女がつらい人生を送っていたとは思いたくないだけなのかも。 「気の毒な彼女の人生が、そんなつらいだけの人生であってほしくはない」という感傷に過ぎないのかもしれない。  病に侵される前の彼女は、ひらひらと蝶が舞うようにしなやかに気まぐれに愉しく生きていた。  そしてそんなつかみどころのない彼女に翻弄された男たちも少なからずいた。  美しい花のような男にだけ優しく舞い降りては、その蜜を吸っていた。  蝶が花から花へと飛ぶように、彼女は美しい男から美しい男へと羽を休めに舞い降りては、甘い蜜を堪能していた。  なんだかそんな気がした。そうであって欲しかった。  そうだ、彼女をミス・バタフライと命名しよう。
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