邂逅

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邂逅

不思議な夢を見た。 峻険な山を越え、深い峡谷を渡ると 花咲く森の小さな草原に出た。 ここは何処だ? 僕は思う。 よく見ると、美しい女が若草の(しとね)に 全裸で横たわっている。 仰向けで眠っている彼女の下腹部には 淡い翳りが見えた。 形の良い乳房が、柔らかい春の陽差し を受け、僕の眼を眩しく射た。 女の肌は白く滑らかだが、温かな血潮 がほんのり差して桜色だった。 長い黒髪を枕に横たわる彼女の顔は 小作りで可憐だ。 見覚えのある女だが、誰だかなかなか 思い出せない。 近づくと、女は(つむ)っていた眼をぱっち り開けて僕を見た。 長い睫毛に彩られた大きな瞳は、黒々 と濡れたように輝いている。 その潤った瞳の中に、僕の影が鮮やか に映っていた。 ようやく思い出した。女は僕の大学 時代の恋人だった。
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