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ダヴィは顔を真っ赤にさせ、涙を浮かべてロミを見上げた。少年は引っ込み思案で内気な性格をしており、同世代の子供達の間でも浮いた存在になっていた。集団でいても自分から言葉を発さず、誰かの後ろをいつも金魚の糞のようにくっ付いて回っていた。そんな、不憫で可哀想で――そして都合の良い子供だった。
目の中に溜まっていた涙が、とうとうダムが決壊するように零れ落ちた。「お願い、ロミ。もうここには来ないから」
「どうしようかな」ロミはそう言い、わざとらしく首を傾げた。耳を真っ赤にし、顔面を涙と鼻水だらけにしているダヴィの懇願を見ているうちに、身を震わすような加虐心がむくむくと膨れ上がった。
ダヴィは手の甲で流れ出た鼻水を拭った。彼の柔らかな頬っぺたに、ナメクジが這ったようなてらてらとした粘液が光った。ロミはそれを見て、心の中で膨れ上がった感情が今にも爆発しそうになるのを感じた。
「じゃあ、今から言う事をちゃんと聞いたら、母さんには言わないでいてあげる」ロミは込み上げる感情を抑え込みながら、赤ちゃんでもあやすかのような猫撫で声を出した。「約束するよ。ダヴィがここに来た事は誰にも言わない」
「本当に?」ダヴィは喉の奥に涙が詰まっていたのか、ひっくひっくとしゃくりあげた。「僕は何をするの?」
「じゃあ、横になって目を瞑ってくれる?」ロミはそう言い、相手を安心させるかのように優しく微笑みかけた。「簡単な事だよ。何も怖い事は無いからね」
ダヴィは戸惑いを見せたが、地面に仰向けになり目を瞑った。ロミは紐を引き抜き、寝そべった彼の上に跨った。両脇の間に足を入れ、膝立ちのような格好になる。ダヴィは大人しく目を瞑ったままだった。首の隙間に紐を通し、何度か交差させて馬繋ぎという結びを作った。昔、馬を柱に繋ぐ為に使用されていた結び方で、片方の紐を引っ張るだけできつく締まるようになっていた。
「気を失わなかったら黙っていてあげるよ」ロミはそう言い、ダヴィの胸に跨ると、紐の端を軽く引っ張り上げた。途端に首が絞まり、溜まらずダヴィは首元に手をやった。「大丈夫、怖い事なんて何も無いからね」
力を強めると、紐はダヴィの首にきつく食い込んでいった。頭に血が溜まり、その顔は見る見る朱色に染まった。酸素を取り込もうとするように口をぱくぱくとさせ、零れ落ちそうなくらいに目玉を見開いている。ダヴィは必死に抵抗するが、藻掻けば藻掻くほど紐は食い込んでいく。血管が切れて眼球は真っ赤になり、顔や喉元は風船のように膨らみ、口からは泡が噴き出した。
「死なせないよ。だって、殺しちゃったらつまんないもんね」
ロミは朱色から赤紫、そして紫色に変化していく顔色の変化をつぶさに観察した。瞳の焦点が合わなくなり、膨らんだ舌は突き出され、体がゴム人形のように弛緩していく。
自分の下で、幼い子供が苦しみ呻いている、涙を流し、助けてくれて懇願している。今この瞬間、美しい一つの命が燃え尽きようとしている。ロミは下半身が熱くなり、腹の底から快感が込み上げてくるのを感じた。人の生死を支配する行為。それは性行為よりも強烈な、究極のエクスタシーの体現だった。
込み上げる愉悦に忘我の状態になり、気付いた時にはダヴィはぴくりとも動かなくなっていた。ロミは我に返り、口元に手をやるが既に呼吸は止まっていた。ダヴィの顔面は赤紫色に鬱血し、見開かれた瞳には呑気なまでに青い大空が映り込んでいた。
ロミは舌打ちをし、ダヴィに跨ったまま、弛緩した体を見下ろした。狭い町、子供が居なくなれば母親達が騒ぎ出し、すぐにダヴィの死体は発見されてしまうだろう。そうすれば、町に警察が大挙し、マスコミが駆けつけるような大事件へと発展していってしまう。
ロミは先が尖った石を拾い上げた。元は一つだった石が割れて、その断面は刃物のように鋭くなっていた。ロミは鼻歌を歌いながらダヴィのズボンを下ろし、下着に手を掛けた。窒息の影響か、失禁し下着の前が黄色くなっていた。ロミは乾いた唇を舐め、石の切っ先をダヴィの下腹部に当てた。
雨に洗い流された朝の森は清涼で、歯磨きした後のように爽やかだった。汗で湿った額の上を、南国の風が触れていく。アマゾン川沿いにある辺境の町、アマニェセル(曙町)の退屈な一日はこうして始まった。
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