家族にニセモノがいます

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 前を見ても右を見ても左を見ても僕の姿がある。一緒に入ったはずの高校生のお姉ちゃんと中学生のお兄ちゃんの姿は、いつの間にか見えなくなっていた。 「お姉ちゃん、お兄ちゃん、どこ?」  小学生の僕は非日常の異様な空間だけでも怖いのに、そこに孤独という要素が加わり、無意識のうちに不安が口をついていた。  次の瞬間、僕の正面の鏡が僅かに明るくなり、白い和服に長い髪を垂らした女性が姿を現した。 「うわぁぁぁ」  思わず叫び声を出した僕は、あまりの驚きと恐怖で足の力が抜けて尻もちをつきそうになり、誰かに体を支えられた。 「大丈夫か?」 「お父さん、いきなり幽霊が」 「心配しなくていいよ。幽霊はね、」 「どういうこと?」 「この幽霊は怖がっている姿を見たいんだ。だから、怖がってさえいなければ、この幽霊に俺たちの姿は見えないんだよ」 「僕が怖がらなければいいの?」 「そうだよ。気持ちを強く持って。ここからはお父さんと一緒に行こう。幽霊なんて怖くないよ」 「うん。幽霊なんて怖くない」  そう言って僕は、お父さんと手を繋いでミラーハウスの出口に向かった。
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