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祝詞(のりと)
祝詞、どれくらい昔から詠まれているのかもわからない、代々この湖に伝わる言祝ぎ(ことほぎ)。
湖の子供達は物心がつく頃から、この祝詞を覚えさせられ、披露させられる。寝る前に、久しぶりに会う遠く離れた親戚に会う時に、湖の民の集まりがある時に。祝詞を覚えるのが早いと、湖の恵みをたくさん受けられると信じられているから、どの家も子供が早く覚えられよう、励むのだ。
かくいうパタは、祝詞を皆の前でつっかえることなく詠めるようになったのは5歳の時。早い子は、3歳くらいで詠むことができるので(意味はおそらくわかっていないが)、月並みより少し遅いくらい、だ。
しかし、パタが皆に言っていないことがある。2歳の誕生日の日の朝、祝詞を確かに完全に詠むことができたのだ。皆に披露するために、朝早く起きて練習していた時、一度も突っかかることなく。まだ祝詞を完全には覚えてはいなかったが、頭に祝詞の言葉と、その意味する情景が流れ、何の苦労もなく思いを込めて詠むことができた。幼心にも、不思議な感覚だった。
祝詞を詠むにつれ、自分の体の中の何かが目覚め、記憶が呼び覚まされ、思いが溢れてくる。
幸せな感覚、満ち足りた感覚、高揚する感覚、力が溢れる感覚、その後の悲嘆、悲鳴、後悔、喪失感。
結局、パタは高熱を出し、誕生日祝いは延期に。祝詞も、誕生日に皆の前で披露することはなく、ただ寝て1日が終わった。
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