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高校一年の秋の日、放課後のことだった。
僕は一人、教室に残って、イヤフォンで音楽を聴いていた。
するとそこへ、クラスメイトの山口さんが入ってきて、僕に訊いた。
「家永君、なに聴いてるの?」
「なにって、サザンオールスターズの『IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR』だけど」
「えっ!?」
「えっ!?」
「本当に!? 家永くん、『IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR』を聴いているの!?」
「うん、確かに『IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR』だよ」
「アルバム『世に万葉の花が咲くなり』(1992)に収録された、全編英語の名曲ね!」
「うん。ムーディーなメロディと、メンバーのコーラスが胸に染み入るようだよ。ところで、そういう山口さんもイヤフォンをして、なにか音楽を聴いているようだね」
「ええ。私は、サザンの曲としては有名過ぎてベタ過ぎる、あるバラード曲を聴いているの」
「というと、『いとしのエリー』(1979)?」
「いえ、もっとずっと後に発表された曲よ。サザンで一番有名なバラードかもしれないわ」
「ははあん、じゃああれだ」
「きっと当たりよ。有名過ぎて、これを好きだって言ったら、サザンファンとしてはニワカと言われても仕方ないほどに有名だもの」
「残念ながら、今ではちょっとタイトル的に流しにくくなってしまった、あれだね。『T』で始まる名曲中の名曲だ」
「ええ。ご明察の通り、『TSUNAMI』(2000)と見せかけて、『旅姿六人衆』(1983)よ」
「ウッフフフ、確かに、ベタだよね、普通かつ有名過ぎるよ、『旅姿六人衆』って、口に出すのも恥ずかしいくらいベタだもの。当時は六人だったんだけどなあ」
「ギターの人がね」
「ギターの人がね、ちょっとね」
「家永くんは、バラード以外はなにを聴くの?」
「うーん、僕もベタだよ。特別サザンファンでなくても、そのタイトル聞き飽きたわ! って言われそう」
「たとえば?」
「『我らパープー仲間』(1981)、『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)、『怪物君の空』(1985)、『ブリブリボーダーライン』(1992)あたりかな」
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