大人になって

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大人になって

 マサルもケンもお祖母ちゃんの家から新しい小学校へ通って、地元の中学校へもかよって、マサルが高校進学ってなった時に、お祖母ちゃんに聞いた。 マサル「お祖母ちゃん。高校ってお金かかるんでしょう?俺言っても大丈夫なの?」 お祖母ちゃん「お金の事なんて心配ないのよ。お仕事の方はお仕事の保険にお父さんが入っていたからそっちで支払われているの。  その他に普通の生命保険。ってのに、お父さんもお母さんも入っていたからそのお金があるのよ。  それに中学校までは、制服もお前たち、人のおさがりで我慢してくれたし。  お祖母ちゃんだって、まだ仕事してたんだからそんなこと気にしないの。  ただ、大学までってなると、アルバイトしてもらうか、国立や公立の大学じゃないと厳しいかもしれないわねぇ。  まぁ、今は返済不要の奨学金のある大学も増えているし。高校の間に考えればいいのだから、慌てなくていいのよ。」  マサルもケンも、お祖母ちゃんに迷惑をかけないように気をつけて生活していた。  食器も自分で運んだし、家事も手伝った。  元々お母さんも、家で仕事をしていたので、二人とも小さいときから自然に手伝っていたのだ。  年頃の男の子らしく、学校では元気に騒いだり、遊んだりしていたが、2年違いと言う事もあって、中学校もケンが1年生の時にはマサルが3年生だったので、悪い友達に絡まれたり。と言う事もなく、無事に通りすぎてきた。  マサルは学力的にはどこの高校にでも入れたが、手に職をつけたいという理由で、商業化のある公立の高校に入った。  特に国で認められている商業簿記や情報処理技術者試験を積極的にとり、卒業までに両方共1級を取得していた。そのほか、英語にも力を入れて、英検も2級までは取っていた。  ケンも同じ高校に入り、兄と同じ資格の他に、危険物取扱い者の資格も取った。  二人とも大学の推薦枠を貰えたにもかかわらず、断り、就職した。  マサルはIT系の会社に入った。海外事業部に配属され1年を過ぎる頃には海外への出張への同行をさせられるまでになった。  ケンは建築系の会社に入り、そこで、積算部に配属され、安定した収入を得た。  二人はある日曜日に祖母に、ちょっと出かけてくる。と言い、あの小さかった日の祖母の家に向かう電車で話したことを実行しに行った。  どんなに勉強をしても、どんなに良い会社に就職できても、お腹にぽっかり空いた穴は埋まることがなかった。  そこで、約束通りに二人が生まれ育ったあの家を見に行ってみようということになったのだ。  あの頃、とても長く感じた電車の時間は、通勤に慣れた二人にとっては、あっという間の距離だった。  二人は最寄り駅を降りて、かつて自分たちの住んでいた家の場所へと向かった。  そこは、すっかり様変わりして、近隣一帯には高いビルが建ち、二人が過ごした家があったと思われる辺りは公園になっていた。 マサル「ハ・・ハハハ。公園になってらぁ。」 ケン「なんだか・・思ってたのと違ったな。」  二人は公園のベンチに座って、しばらく黙っていたが、どちらともなくベンチからたって 「帰ろうか。」  と、同時に言った。  祖母の家の前まで来たときに二人はなんだか不思議な気持ちがした。 マサル「なんかさ、おれ、お腹に空いた穴がふさがったみたい。」 ケン「あぁ、俺も。」  二人は元あった家の場所ではなく、あの約束の日から過ごしてきた祖母の家を見て、つぶやいた。 マサル「おかしいな。毎日ここに帰ってきてたのに。」 ケン「あぁ、なんか、もうここが俺達の家だったんだな。」  その時、祖母が買い物でもあったのだろうか、家から出てきた。 「まぁ、何してるの。帰って来たなら二人で買い物に行って来て頂戴よ。  今日はお鍋にしようと思ってたから、野菜が重いなって思ってたの。」  二人は、祖母の顔をしみじみと見ながら買い物のメモを受け取り、そのまま買い物に出かけた。  その日は水炊き。  冬が近くなると一番最初にする鍋は水炊きなんだ。  俺たち様に鶏肉は多め。白菜もたっぷり二回は材料を入れ直す。  買い物は二人には重くはなかったが、最近、縮んだか?と思うような祖母にはもう結構な重さなのだろう。  買い物カートをガラガラと引きずって買い物へ行くことも多くなっていた。 マサル「家の中の家事てつだうだけじゃなくて、会社の帰りに買い物も引き受けるか。」 ケン「あぁ、翌日の献立の物だったら、俺達が買って帰っても間に合うもんな。」  あの日から祖母と何でも3人でやってきた。  お金がなくても祖母は家の近くでイベントなんかがあれば、面倒がらずに足を運んでくれたし、町のお祭りもみんなで出かけた。  近所の人達も良く声をかけてくれたし、両親がいっぺんに亡くなった割には、俺達はさみしい思いをしたことがなかった。 ケン「俺たちのお腹に空いた穴はきっとお祖母ちゃんやこの近所の人達が埋めてくれたんだろうな。」 マサル「あぁ、俺達、めぐまれていたよな。」  二人は皆に感謝して、もうすっかり様変わりしてしまった約束の場所への思慕は消えていた。 【了】      
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