激しいフラッシュバック

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激しいフラッシュバック

 自宅に帰って、さっそくおじいちゃんが買ってくれたコミックを読む。  僕の知らない豆知識や、色んな作家さんのこだわりが伝わってきて、とても楽しかった。  ただよくわからないパロディも多く、当時の僕では笑えないエピソードもあった。  だから理解できない言葉や名前が出てきた時は、母さんに質問したりしていた。  1997年当時、今のように、簡単に“ググる”という行為が出来なかったから。  中でも全く理解できない言葉。  物知りな母さんでも分からないと言っていた。  それは『やおい』だ。  ミ●トさんがヘラヘラ笑って、薄い本を読んで、主人公が焦るという内容だったと思う。  母さんはぶ厚い広辞苑を持ち出し、やおいという言葉を調べたが、出てこなかった。  僕はそこで「もういいよ」と諦めたが、母さんは絶対に諦めなかった。  全ては息子のため、いや自身の性格が邪魔していたのだと思う。  「分からないまま終わるのは嫌い」だと、昔から言っていた。  ~数か月後~  自室で”スーパーロ●ット大戦”をプレイしていると、母さんが満面の笑みで声をかけてきた。 「幸太郎! わかったわよ、あの意味!」 「へ?」 「色んな図書館や本屋で調べて、ようやくわかったの!」 「?」 「やおいよ! やおい!」 「ああ……そう言えば、そんなことを言ってたけ」  僕はすっかり忘れていた。  その間、母さんは色んな図書館で調べたり、本屋で意味を聞いたり……。  今考えると迷惑行為に近い行動をしていたと思う。  これは僕の憶測だが、きっと本屋のお姉さんに。 「あの、やおいという本は、ここで売ってますか!?」    と質問した母に対し、お店の優しいお姉さんが答えてくれたのだろう。   「お客様。意味分かって言ってます?」 「え? 息子が意味を知りたがっていたので」 「なるほど~ やおいと言うのはですね……」  と言ったように、僕の知らないところで、変な解釈をされたのではないか? と思う。  そして、母はどこで買ったか知らないが、例の作品の薄い本を僕に差し出す。  受け取った僕は「あ、すごい!」と喜んでページをめくる。  ~数分後~ 「……母さん、これもう返すよ。僕、やおいって意味、知ってたよ」 「あ、そうなの!? 中々、奥の深い世界よね! やおいって!」 「頼むから、もうやおいって僕の前で言わないで……大好きな作品の世界観がおかしくなる」 「そうかしら? 良いんじゃない、こういう世界があっても」 「……」  僕の脳内では、激しいフラッシュバックを起こしていた。  もう忘れたいトラウマの一つだ。
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