約束の場所

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約束の場所 翼に力を込めて羽撃く。風を上手く読み、その流れを掴むことがコツだ。海の上、餌も水も摂らず、ひたすらに進む。仲間たちも一緒に進む。雨の日も日差しが強くても、風に煽られても。 僕は前の春に生まれたから初めての渡りの筈なのだけど、僕の中の何かが北に行けと急き立てる。体で感じる何かの力、それに沿っていけば生まれた土地に行ける。確信がある。だから飛ぶ。 僕たちは南の土地で暮らしていた。暖かくて虫も食べ切れないほどだった。あまりに多いから、他にも同じように虫を摂る鳥も増えてくる。僕だけ食べるならばそれでもいいんだけど、子供を育てるとなると別だ。ライバルが増えると天敵も食べに来る。 僕たちは子供を持つために遥かに飛ぶのだ。 途中で何箇所かで休み、そこで餌や水を摂るけれど、僕の中の何かは言う。ここではない。もっと行け。さらに海を越え、陸地を目指せ。 陸地が見えた。もうすぐだ。気流が乱れるから気をつけろ。 陸地にやっと着いても、ここは僕の生まれた土地ではない。さらに北、さらに飛ぶ。僕たちが育った約束の場所へ。 懐かしい風、懐かしい匂い。父さんや母さんが運んでくれていた虫と同じ虫が住む土地まで来た。父さんや母さんも、爺さんや婆さんも生まれて育った土地。ここで僕は新たに巣を作り、相手を見つけ、子供を育てるのだ。 生まれた土地に帰りさえすれば良いと思っていた。僕が育ったような、人間が作った木でできた建物の屋根があるところに巣が作れる。そう思っていた。 まさか何もないとは。巣の材料の泥が広がっていた川はなくなり、人間が作る石を固めた道になっている。僕たちが巣をかけられる木でできた建物もなくなり、石でできた表面がのっぺりとした高い壁のような建物になっている。 これでは何を使ってどこに巣がかけられるのか。 僕は呆然としてしまっていた。 やがて、よろよろと飛び始めた。約束の場所は無くしてしまったが、僕は子供を育てなければならない。餌を確保し巣を設けて、相手と一緒に子供を育てねばならない。 疲れた体を引き摺るように、僕は新たな場所を探しに飛んだ。新しい約束の場所を見つけるために。
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