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4
無謀だった。
廃ビルの中で、改めて美咲は己の考えのなさに呆れた。
以前、喧嘩に飛び込み、高瀬に助けられた時もそうだ。
──お前、自分が一体何が出来ると思ってんだ!
正義感だけで何とかなると思い込んでいた美咲は、高瀬にそう怒鳴られたのだった。
あの時、膝を擦りむくだけで済んだのは奇跡だったのだ。
これまで報復に遭わなかったのも、高瀬が護っていたからだ。そんな事にも思い至らず、そして思い上がっていた。
一体何時だろう。
割れた窓から見えるのは漆黒の闇だ。
両親は今頃心配しているのだろう。
警察に連絡しているかもしれない。
優希は──?
自分が売人と接触したことで、彼女に影響が出ていないだろうか。
あの男が、優希に対して暴力を振るっていないだろうか。
つくづく、自分が浅はかであると思い知らされる。
結局、自分の事しか考えていなかったのだと──。
「──!」
その時、美咲は床を這うように流れ込んで来る白い物に気が付いた。
それが煙だと気付いた時には、もう喉が痛くなっていた。
火事だ。
外から嬌声が聞こえて来る。
誰かが火を放ったのだ。恐らく、あの売人とその仲間だろう。
そして直ぐに深くアクセルを踏み込み、走り去る車の音が聞こえた。
心臓の鼓動が早くなり、冷たい汗が噴き出る。
体が強張り、動くことすら出来ない。
死ぬ──。
美咲は死を意識した。
死にそうだと何度も口にしたことがあるが、本当に死を意識したのは生まれて初めてだった。
部屋のドアの隙間が明るく光る。
炎が直ぐそこまで来ているのだ。
怖い。
苦しい。
誰か──。
誰か──!
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