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 無謀だった。  廃ビルの中で、改めて美咲は己の考えのなさに呆れた。  以前、喧嘩に飛び込み、高瀬に助けられた時もそうだ。  ──お前、自分が一体何が出来ると思ってんだ!  正義感だけで何とかなると思い込んでいた美咲は、高瀬にそう怒鳴られたのだった。  あの時、膝を擦りむくだけで済んだのは奇跡だったのだ。  これまで報復に遭わなかったのも、高瀬が護っていたからだ。そんな事にも思い至らず、そして思い上がっていた。    一体何時だろう。  割れた窓から見えるのは漆黒の闇だ。  両親は今頃心配しているのだろう。  警察に連絡しているかもしれない。  優希は──?  自分が売人と接触したことで、彼女に影響が出ていないだろうか。  あの男が、優希に対して暴力を振るっていないだろうか。  つくづく、自分が浅はかであると思い知らされる。  結局、自分の事しか考えていなかったのだと──。 「──!」  その時、美咲は床を這うように流れ込んで来る白い物に気が付いた。  それが煙だと気付いた時には、もう喉が痛くなっていた。  火事だ。  外から嬌声が聞こえて来る。  誰かが火を放ったのだ。恐らく、あの売人とその仲間だろう。  そして直ぐに深くアクセルを踏み込み、走り去る車の音が聞こえた。  心臓の鼓動が早くなり、冷たい汗が噴き出る。  体が強張り、動くことすら出来ない。    死ぬ──。    美咲は死を意識した。  死にそうだと何度も口にしたことがあるが、本当に死を意識したのは生まれて初めてだった。  部屋のドアの隙間が明るく光る。  炎が直ぐそこまで来ているのだ。  怖い。  苦しい。  誰か──。    誰か──!      
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