思い出した、あの日約束をした場所

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思い出した、あの日約束をした場所

 俺は、ホテルのロビーの空いている机を探す。  そして、机の上に置かれている、ポップを手にする。  え~っと、フリーWi-Fiのパスワードは……これか!  持ってきたタブレットパソコンを立ち上げると、俺は懐かしのオンラインゲームを立ち上げた。  頼むぜ。  ゲームなら、ログインすれば相手に通知が届く。  更に言うなら、ログインをメールに飛ばすことも出来る。  そうすれば、彼女は、いつでも簡単に待てるし、寒くもない。    さっ、どうだ?  俺は定型文を打ち込む。   「おまたせ!」  ……返事が無い。  また失敗か…………。  まつ、やるだけの事はやった。  時計の針は、9時59分。  タイムリミットだ。  サヨナラ、俺の青春…………。  ピボッ! 『おそかったじゃない』  へっ、返信が来た。  はぁ、これが当たりか…………良かった…………。  だが、俺はそんな気持ちを、おくびにも出さない。 「悪いな、忘れていたんだよ」 『……酷いなぁ……何時間待たせるの?』 「もう少しヒントをくれてもよかったんじゃないのか?」 『そうね。でもここは、良平が初めて私にプロポーズしてくれた場所だから、どうしても忘れられなかったのよ』  そう、その昔俺たちは、オンラインRPGの世界の中にいた。  まだ中学生だった俺たちは、このゲームでよく遊んでいた。  そして、このゲームには結婚機能というのがある。  好きなプレイヤーと、永遠の丘で告白すると結婚することが出来るのだ。  そして、俺は中学生の時、知佳にこの丘でプロポーズをした。  だが、その時の知佳の答えはこうだった。 『プロポーズを受けてもいいけれど、今は仮だから、もう一度プロポーズするときは、チャンとここでしてよね』  俺はその時、知佳が何を言っているのか、理解をしていなかった。ゲームを続けるのに、結婚していた方が有利に働く。ただ、それだけを考えていたためだ。 「長い間またせたな」 『ほんとよ。何年待たせるき! もう少しでおばさんよ!』 「……悪かったよ。じゃぁもう一度、ちゃんとプロポーズするな」 『ドンと来いでゴワス!』 「ジャルジャン! どうか、この(わたくし)と、結婚してくださいまし」 『よろしいシャルピィ。謹んで受けよう!』  俺は、スマホを手に取り、知佳に電話する。 『はい、もしもし!』 「もしもしじゃねぇ。なぁ知佳」 『何?』 「俺のロリコン美少女キャラが、知佳の髭おっさんキャラにプロポーズするっておかしくないか?」 『……まぁ、そうね』 「だよな。じゃぁさぁ。電話でもちゃんと言うわ」 『えっ、ちょっと待った』 「もうまたねぇよ。知佳、俺と結婚してくれ! 絶対に幸せにする!」 『…………そうかそうか、良平君、娘を頼む。 良平君、末永く、うちの知佳をよろしくお願いしますね』 「……えっ?」 『……ごめん。両親と温泉旅館に来ていてさぁ……、スピーカーで話していたのよ。ほら、PCネットに繋いでいたし……』 「もしかして、今のって……」 『そう。うちのお父さんと、お母さん』 「えっ、えっ、えぇぇええええええ!!」  俺は、沖縄のロビーで愛を叫んでしまった。 「あ~もしもし、知佳、まだ電話切れてない?」 『……切れてないわよ。なに?』 「いゃぁ、俺、お前探すのに沖縄まで来ちゃってさぁ、お金ないんだわ」 『だから?』 「新婚旅行、近場でいい?」 『……私の夢はねぇ、イタリアでパスタを食べることなの。今度はイタリアでプロポーズしてもらおうかな~』 「なっ、元はと言えばお前が悪いんだろう!」 『なに? 私のせいにする気!』  俺達は、プロポーズをして、5秒後に喧嘩をした…………。 追伸  二人の新婚旅行は、三年後になったそうな……。

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