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カラン、カラン……
湖畔の城に、夕べの祈りの時を知らせる鐘が鳴り響く。
夏の長い夕暮れ時、城の中庭は、明日からの市の開催に向けて、臨時の屋台を組み立てる槌音もせわしなく、ざわめきに包まれていた。
五日後、この城では城主の結婚式が挙行される。その前祝いを兼ね、中庭や広場を開放して市を開くのだ。
北方からの羊毛や毛織物、南方の海辺の街からは外国の珍しい絹、金銀細工に蜂蜜酒、エールに葡萄酒……石畳の円形の広場には簡易な屋台が作られ、茣蓙が敷かれ、麻布でできた日よけが張られたりと、着々と市場のように仕立てられていた。商人たちは明日からの準備に余念がなく、荷車も運び入れられ、早速、商談を始める行商人たちの姿も見える。
市の人出を当て込んで集まった楽人や大道芸人が、フィドルや太鼓、鈴を鳴らして人寄せをし、葡萄酒や蜂蜜酒、麦酒を商う者は「味見」と称して酒を分け合い、前夜祭を決め込んでいた。
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