独り言エンドレス

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   吾輩は猫である。いや、ない。  ないわー! ないない、猫じゃなくて人間、名前もちゃんとあるの。相手にものをたずねるときは、まず名乗れとかいうじゃない、自己紹介しようとしたらなんかテンパっちゃった。なんでこんなの出てきたんだろ、懐かしいな、国語の授業で暗記させられたよね。まだ覚えてんだな、って一行しか出てこないけど。ほかにもあったよな。えっと。  祇園精舎の鐘の音――聞いたことないわ~。  行く川の流れは絶えずして――うん、絶えようが絶えまいがどっちでもいいかな別に。  恥の多い生涯を送ってきました――のかな? んー、送ってきたかもしれないけど大して気にしてないんだよな。本人がほとんど恥じてないから、多いかもしれないけど少ないってことでよくない? だめ?  急に聞かれても困るかー。だよね。いやでもね、出会いはいつも突然に、じゃない?  バーで飲んでたらキレイなおねえさんが隣に座ったとか、予想外に降り出した雨にキレイなおねえさんが相合傘してくれたとか、曲がり角でキレイなおねえさんとぶつかりそうになったとか。キレイなおねえさんはもういい? そっか。いや、出会ったことないもんだからさ、そんな突然に、劇的に、ロマンチックに。いっぺんくらい出会ってみたかったよなぁ・・・。あ、ごめん、人生終わるかもしれないって思うと、なんかしんみりしちゃった。  今ね、ちょっとさ。叫びたくてしかたないんだよ。目の前にあるもんが、もう気になって気になって気になっちゃってんの。正体聞きたくて聞きたくて。あ、いい? どうぞどうぞってカンジ? 聞かずにいられないから、イヤがられても叫ぶけどねー。  前略。あなたは。爆弾ですか?  よっしゃ叫んだー! あぁスッキリしたわ。返事はないけどな。ないよ、あるわけないだろ、だってヤツは爆弾、だぜ? 耳も口もついてないもん!  まぁまだ、爆弾かもしれないもの、だけど。いやこっちも知りたいよ、さっさとはっきりさせたいんだよ、でも返事がないんだよぅ。  あぁなたはぁ、バ・ク・ダ・ン、でぇすくあぁぁ~?  はい、返事、どうぞ!  ――ないな。ただの屍か――いや違うわ、箱だわ。黒いのよ。目の前のマンションの敷地囲む塀の上にのってんのよ。横三十センチ、高さ十センチ、くらい? 奥行ちょっと見えないな、わかんないけど。んでね、鳴ってんのよ、音が。チッ、チッ、チッ、チッ、って。いわゆる、カウントダウン、的な? 時計の秒針が刻むやつね。いまどき、時計もデジタルだろうけどさ、カウントダウンはやっぱりアナログじゃない? いいよね、針の先がくるーっと回ってくんの、残り時間が迫ってまーす、って目に見えてさ、ドキドキするよねー。  今さ。音はするけど、時計は見えないわけ。アナログも、デジタルも。箱の表面、つるっとしてんの。中にあるんじゃないかと思うんだけどさ。見えないんだよなー。ちょっと手届かないし、ヘタに触るのも怖いじゃん、揺らしたらダメなヤツだったらドッカンいくんじゃない? イヤイヤイヤ、ムリムリムリ。

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