お正月を待ちながら

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御神木の間から、冬の優しい日差しが神社の境内に差し込んでいる。このところ厳しい寒さが続いていたが、今日はよく晴れて過ごしやすい。 イチョウの葉がひらひらと舞い散る中、その一枚一枚が光に照らされ、あたり一面にじゅうたんのように敷き詰められている。 みすずは、落葉を両手いっぱいにすくいあげては、それを「パラパラ〜」と言いながら散らす遊びに夢中になっていた。 その一方で、白雪はほうきで落ち葉を掃いてお掃除している。 「もっとちゃんと働いてください」 白雪は叱ってばかりだ。白雪は十三万年生きてきた狐生のなかで、こんなに怠惰な神様を知らなかった。だから、みすずを立派な神様に育てようと張り切っている節がある。しかしまだ幼くお転婆なニ万歳のみすずはまだまだ遊びたい盛りで、白雪の苦言なんてどこ吹く風。全く反省の色なく、 「賄賂にお稲荷さんを買ってあげるよ」 と言う。 白雪は眉間に皺を寄せる。 「お金あるんですか?」 「賽銭箱の……」 「それは勝手に使っちゃダメ!」 また叱られた。 白雪は、みすずを叱るたびに、心の中では「もっと優しくしてあげるべきではないか」と自分を責めていた。しかし、みすずの無邪気な笑顔を見ると、心のモヤモヤが晴れ、穏やかな気持ちになるのだった。 ふたりは人型になって過ごしている。「もし誰か参拝客が来たらすぐ姿を消そう」と思っているものの、人気のない神社だから、あまりそういった場面に遭遇することはない。 「お小遣いもっとほしいなぁ〜」 みすずは手を大の字に広げて、落ち葉のクッションに寝転んだ。ふかふか、やわらか。 「神社にたくさん人が来たら、お賽銭もたくさんになって、お小遣い増えるかな〜」 どうしたら人がたくさん来るだろう?と、みすずは考えた。 「神社のお宝、公開しようよ!」 「社寺参詣曼荼羅ですか?あれ曼荼羅ということになってますが、本当はかみさまが昔描いた漫画なんですよね」 「バレてないからいいよ〜人間は真実よりも面白いかどうかを重視するものだからね〜」 と、みすずはどこかで聞きかじった金言をそれっぽくのたまわった。 白雪はみすずの言葉に少し顔をしかめるが、ふう、とため息をついて掃除を再開した。 神社の境内は静まり返り、冷たいが心地よい空気が流れている。 「でも、もうすぐお正月ですよ。お正月には、神社にいっぱい人が来ますよ。」 と、白雪はちらりとみすずを見ながら言った。 「ホント!?じゃあ、たくさんお稲荷さんを食べられるね!」 みすずは目を輝かせた。それを見て、白雪は優しく微笑んだ。 しばらくの間、ふたりは言葉を交わさずに、ただ冬の光を感じていた。お正月の賑やかな様子を想像すると、あたたかな気持ちになってくる。 「そうだ、白雪。お正月になったら、立派なかみさまに見えるように、もっとお仕事がんばらないとね!」 「その意気です」 白雪は少しだけ誇らしげに言った。 「さあ、もうすぐお正月です。しっかり準備しましょう。」 白雪がそう言うと、みすずも元気に、 「うん!お稲荷さんをたくさん食べられますように!」 と、答えた。 みすずは、いつか立派なかみさまに本当になったら、大好きな白雪に、たくさんお稲荷さんを食べさせてあげたいなと思った。
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