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恋敵には御用心
物心ついたときから、我が家の年末年始は毎年同じホテルで過ごすと決まっていた。
「行くわよ」
そう言って、母はやおら愛車カローラのエンジンをかけた。今から私達家族三人はそのホテルへ向かう。
毎年のこととは言え、車内には戦地に赴くような空気が漂っている。
嫁である母にとって、父方の親戚との宴会など肩の凝る厄介ごとに過ぎない。そんな母のご機嫌取りのために、父は助手席で母の愚痴を聞くと決め込んでいた。
かと思いきや。
「千紘、お前もう今年辺りからお年玉貰えなくなるんじゃないか?」
車が走り出してからしばらくして唐突に、父が後部座席をいる私に振り返って言ってきた。
「私、夏に二十歳になったんだよ? お年玉なんてもう要らないよ。バイトだってしてるんだから」
「そうか。じゃ、そろそろあげる側に回るんだな」
「………」
それはさすがにまだ勘弁して欲しい。バイト代は友達との付き合いや、流行りの服などを買うので毎月ほぼ使い切っている。就職も当分先の予定だ。
お年玉問題か。貰う側からあげる方へ。悩ましいが、この年一のイベントには何があったって行くつもりでいるのだ。
私には会いたい人がいる。
親戚一同が会した忘年会兼新年会は毎年大晦日と元旦に行われる恒例行事である。親戚のオジさんオバさんから言われることも、やることも毎年ほとんど一緒。
それでも行く。
音頭取りはその年に選ばれし男性陣から幹事二人が担う。
今年はその一人があっちゃんだ。
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