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出会い
「今日から君はティルと名乗りなさい。前の名は捨て、本当の名前は隠して。これからティルは暗殺者ではなく、私の息子グレッグの世話役かつ用心棒をして生きるのだ。誰も殺さなくていい、いや、殺さずに生きなさい。出来るかな?」
私は6歳で人攫いにあい、身体能力の高さから暗殺組織に売られ、徹底的に体術・暗殺術をこの身体に叩き込まれた。
しかし組織が別の暗殺集団に襲撃され、命からがら逃げた先でこの国の王様に拾われた。
私はその時13歳。
瀕死の状態から動けるようになるまで1カ月、脱走しなくなるまで3カ月。
ようやくこの場所が安全なのだと理解した頃、私を連れ帰った張本人の王様が私にそう提案してきた。
人の血を散々浴びた私に、次期国王となる8歳の息子の世話をさせるなんて何を考えているのだろうと驚いた。
「この国はいずれ他国に侵略されて滅びる。しかし、我が息子には……身勝手な話だが、少しでも平穏な生活を味わって欲しい。そのために赤い瞳のティル、君が必要なのだ」
私の瞳は赤黒く、ひどい興奮や殺意を抱いた時には鮮やかな赤い瞳になる。
暗殺者としての修行中、瞳を赤くしては叱られた。
「常に平常心でいろ。標的が同郷の者でも、無心で仕留めろ」
その修行の甲斐あって、私の瞳のことは同業者に知られてはいない。
「あなたの息子を殺すかもしれませんよ」
命の恩人の息子を殺す気など全くないが、暗殺者に息子の警備をさせるということの危うさを理解しているのだろうか。
「君はきっと大丈夫。これでも人を見る目はあるのだよ」
王様の笑いを合図にするかのように、扉から金髪の小さな男の子が部屋に入ってきた。
「おねえさん、もういたくない?」
青い目をしたその男の子グレッグ様の微笑みは、見事に私の心臓を打ち抜いた。
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