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1.音楽の鳴る街
街はバイオリンとアコーディオンが奏でる楽しげなメロディに包まれていた。
ふむ、どうにもクセになる。
のどは鳴るし、足もうずく。たまらない気分だ。
「ニャニャ、ニャー、ニャア。ニャニャ、ニャー、ニャア」
俺は背筋を正して、右足を一歩前へと伸ばした。次に、左足を前へ。
ヒバリもミツバチもどいた、どいた!
魔猫・エリオット様の優雅な行進だ!
右、左、右、左。しなやかに足をさばきながら、リズムに合わせ、首を左右に揺らす。
「ほう」
まるで、ダンスを踊るような動きに、我ながらうっとりとため息をもらした。
「ニャ、ニャ、ニャア。ニャ、ニャ、ニャア」
ついでに歌声も素晴らしいときた。
もしも、この街に野外劇場でもあれば、ぜひとも、街の者たちへ披露してやりたい。俺様の声と、ステップと、艶やかでもふもふとした美しいボディを。
「ずいぶん、上機嫌ね。エリオット」
俺には劣るが可憐な少女、シャロンはくすりと笑った。
「音楽ってのはいいもんだな、シャロン」
「そうね。なんだか、元気になるわ。なにかのお祭りかしら?」
シャロンが首をかしげる。
「それにしては、洒落た飾りや、出店なんかもありゃしないぞ」
「エリオットの言う通りね。じゃあ、毎日、こんな感じなのかもしれないわ」
「ふうん。めでたくって結構なことだ。良い街に来たらしい」
俺はシャロンに「でかした」と言って、再びふんふんと歌った。
そんな調子でしばらく歩いていると、なんと、ちょっと前まで切望していたものが視界に飛び込んできた。
「おい! シャロン」
「なあに、エリオット。そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるわよ」
「あれは、野外劇場じゃねえか? あまり大きくはなさそうだが、石の柱に趣がある」
「あら? そうかもしれないわ」
よしきた。これで、大衆へ向けて、華麗なるステップと歌声を、見せることができる。
俺は意気揚々と駆け出した。
今日はついてる。これはきっと、日頃の行いのたまものだろう。
「うえっ」
野外劇場の入り口をくぐったと時を同じくして、まぬけな声が零れる。
そこには、先約がいたのだ。
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