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松永、お前は。
大晦日に俺と会って何がしたかったのだ。ここ十年、俺と会うのは初詣に行くときだけと決まってただろが。甘酒からのお好み焼きからの立ち飲み一杯が不可避な規定路線だったろが。
奴の意図が見えん。大晦日の午後六時に待ち合わせて、俺と一緒に日を跨ぐつもりだったのか? 俺と一緒に除夜の鐘を聞きたかったのか? ……それとも普通に俺と年始に会う気はなかったのか? 年始は誰か別な奴と会う気で。
ふざけんな。そんなのダメに決まってんだろが。
俺を勝手に友達認定してくれるのはいいが、俺は自他とも認める気の利かない男だ。ラーメン屋でも松永に何度も聞こうとして聞けなかった。
ラーメン食い終わったらどうすんの? って。
常々、俺は松永に言わんでいいことを言っている。そして言うべきことを言ってない。
たまたま俺が独身だから松永の誘いに乗ってるだけで、結婚したら松永とは会わない。奥さんが可哀想だから。
ーーあ、そ。
松永は仮想妻を思う俺を見て呆れ、笑っていた。
ーー何がおかしい。
ーーお前みたいな鈍感に結婚なんかできるもんか。
その通りだ。
俺が独身なのは取りも直さず俺がモテないからだ。恋人も結婚相手も何にもいないからだ。彼女を作っても俺の性格を知られると平均一ヶ月でフラれる。松永とは独身である意味が違う。
俺は松永とは違う。隙あらば結婚がしたい。
松永のような奴と。
松永と喧嘩したのは昨日が初めてだった。
もう二度と会えなかったらどうしよう。
俺は今、無性に松永に会いたい。
ざわざわした人並みは途切れる気配がない。俺は松永の幻影を見る。警官は俺の横で黙然としていた。
しれっと俺の前にやってきた松永は俺を見て言った。
「律儀な奴」
「どっちが」
俺は名も知らぬ警官が見ている前で、白いダウンジャケットを着た松永の手を取り、ギュッと握った。
了
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