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「やったー、二学期終了ー。明日から夏休みだー」
すず子が大きく腕を伸ばすと制服のベストがピシリと裂ける音がした。
「すず子……」
結衣は言うのをやめた。
「言いたかないけど、最近太った?」
遠慮なく千明が言う。
「めちゃめちゃ普通にディスってくるじゃーん」
と言うわりには本人から笑みがこぼれる。
「え、太った理由が知りたい?うーんどうしようかなー」
腕組みをして、体を左右に揺する。と、今度はスカートのウエストのアジャスターがマックスまで動く。
「ハイハイ話したいのね、聞いてあげるわ」
と、千明。
「ちょっとへこんだことがあった日なんだけど、表通りに米谷パンあるじゃない?」
それは啓太郎が結衣に告白したことだったが、さすがにすず子は言わなかった。
「あ、パン屋なのに米屋さん。わたしもよく行くよ」
と結衣が言う。
「そうそう、元気出そうと思ってイートインでいっぱい食べてたんだ。そしたらさ……『何かいやなことがあったの?』って」
「店のおじさんが?」
千明が悪気なく突っ込む。
「ちっがーう、あそこの一人息子の麦くん!」
「知ってる?」
聞かれた結衣は首を振る。
「いるの!で、彼が『せっかく食べるなら笑顔で食べて欲しいな。今日は俺の焼いたやつ売り切れたけど、明日も焼いて取っとくから来てよ』って」
「へええー!」
「でも『こんなに毎日食べてたら太るでしょ?』
って言ったんだけどー。行くと麦くんが作って待ってるもんで。なんか、わたしのこと、前からいいなって思ってたらしくて。まあ……絶賛幸せ太り、やらせてもらってます!」
ドンっと胸を張った時にベストのボタンが飛んだ……。
「キャー。おめでとう」
「マジかー」
結衣と千明がすず子と手をつないで飛び跳ねた。
「まさか、すず子が三次元の彼氏作るなんて」
気づけばいつも付けているサッカー漫画のぬいがなく、菓子パンのキーホルダーに変わっている。柔らかなスクイーズからは甘い香りがする。
「と言うわけでお二人さん、お先に」
以前より走るのが重そうなすず子が帰っていった。
「お幸せにー」
結衣が言うと振り返って手を振った。
「事実は小説より……ううん漫画より奇なり、だね」
「うん」
「お昼食べて帰れる?ちょっと話したいの」
「いいよ」
いつものハンバーガーショップでランチセットを頼み、千明は両親の離婚のその後の話をした。
正式に離婚もして、二学期からは金田から里野千明になるという。
「このあいだ結衣のお父さんと話してさ、将来やりたいことも見えてきた。今まで漫然と勉強してきたけどこれからはガチでやる」
「千明すごく頭いいもんね。もっといいところ行けたんじゃない?」
「結衣や……すず子や啓太郎と青春したかったから」
「そんな理由?」
「一緒で毎日楽しい」
「うん」
「でもここじゃ不十分だからお母さんに頼んで夏休みから進学塾通うことにした」
「不十分って……わたしなんてついていくのでやっとなのに」
テーブルに突っ伏した。
「結衣はないの?やりたいこと」
言われて顔だけ上げた。
「うーん」
「子供の頃なりたかったのは?」
「うーーん、あ!」
「あった?」
ふふふと笑う。
「小さい時にも聞かれたなと思って……」
「うん?その時はなんて?」
「……なんだっけ?」
首を傾げる。
「結衣だなぁ」
笑ってオレンジジュースにストローを差した。
「いつも子供扱いして」
「それにしても意外だったね、すず子」
「本当にびっくりした。今度お店に食べに行こうね」
「彼氏のチェックしにね」
明日からは夏休みなのでいつものようには会えなくなる。二人で他愛ないことを話して別れた。
帰宅して部屋で一人になった結衣は昼間のことを思い出した。本当は夢を聞かれた時になんて答えたのか忘れてはいない。
(お兄ちゃんに『お兄ちゃんのお嫁さんになる』って言った。そしたら『兄妹じゃ結婚出来ないよ』って言われてすごく泣いたんだよね……)
リュックから机に夏休みの宿題を出していると、携帯が鳴った。
「あ、お母さんどうしたの?」
『夏休みなんでしょ、明日お昼ご飯一緒に食べない?』
「ホント?食べる、行く行く。お兄ちゃんにも言っとくね」
『お願いね。……瑛斗と仲良くしてる?』
「うん」
『そう、よかった。じゃあ明日ね』
「うん、バイバイ」
結衣は通話を切った。

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