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私は駆け出した。行く宛てなど初めからないのだけど、少なくとも彼に捕まることだけはあってならない。
この世の掟から外れた彼が何をするかなんて、思いつきもしない。それでも分かることは一つある。
彼は、人ならぬ人だ。
「ねぇ、なんで?どうして詩津はずっと僕を避けるの?」
背後から声がした。感覚的に、彼はさっきよりも遠くにいる。
はず、だった。
「……っ、きゃ……!」
突然つんのめって、私は前方向によろけた。
何かが、私の足首を押さえつけている!
そう気付いて反射的にその方向を見た時、私は絶句した。
私の影が、捕まっていた。それも、彼の黒い影に。
「僕は待っていたのに。詩津が僕を見てくれる日をずっとずっと、待っていたのに」
「……っ、なにこれ、離し―――」
「死んでからも、ずっと詩津を見守ってきたのに。常に詩津と一緒にいて、時間を共にしてきたのに」
彼の影は、次々私の影を取り込んでいく。
足首を掴み、そのままふくらはぎを。次は膝。
「嫌ぁっ!やめて、助けて……っ!」
新たな影が伸びて、私の腕を掴んでいる。髪の毛も引っ張る。体の芯まで蝕まれていく。
私の逃げ場はもう、ない。
「でも今日からは、ずうっと一緒だね?永遠に、何も無い空間で僕と過ごそう?」
とん、と背中が何かに当たった。それは、二本の腕を私の正面に回して力を込める。
人間の体温とは程遠い、残酷な冷たさだった。

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